「寶」字のいろいろ

  東洋の穴銭(円形で四角の穴があいた貨幣)のほとんどは、最後の文字が「寶(宝)」です。
  この字のいろいろな変化を見てみましょう。


● 金石文 金石文
斉・宝六化 紀元前3世紀

戦国時代末期、戦国七雄の一つ、斉の発行した貨幣です。
このころの文字は、まだ生活の場では使用されず、碑文などにだけ使われていました。
● 篆書 篆書1
北宋・宣和通宝 1119年

秦の始皇帝の時代、宰相李斯が大篆をより筆写に便利なように改訂したもので、小篆と呼ばれています。
通常篆書というと、この小篆をさします。
篆書では王の右側は尓ではなく、王や田となっているものが多いようです。
篆書2
明末呉三桂・昭武通宝 1678年

篆書には冠の長いのがあり、長冠宝と呼ばれています。
● 隷書 隷書
唐・開元通宝 621年

篆書をより書きやすくしたのが隷書です。 秦の時代に発生し、漢の時代に発展しました。
この書は唐代の名筆、欧陽詢の書いたものです。
金石文─大篆─小篆─隷書─楷書
           │  └─行書
           └────草書
● 楷書 楷書1
西夏・光定通宝 1211年

楷書、行書、草書は、紙の発明を契機に、魏の時代以降に発展した書体です。
楷書を真書と呼ぶこともあります。
楷書2
北宋・大観通宝 1107年

徽宗皇帝の筆になる「痩金体」とよばれる書体です。
● 行書・草書 行書
北宋・元豊通宝 1078年

楷書をくずして、筆で書きやすくしたのもです。
草書
日本鐚銭・至道元宝 16世紀

篆書・隷書をくずして、行書よりさらに点画を略したものともいわれています。
● 異体字 缶宝
南宋・開禧通宝 1205年

尓のところが缶になっています。
人小
日本長崎貿易銭・元豊通宝 1659年

尓の上側が人になっています。
● 略字体 珎宝
日本・和同開珎 708年

珎を寶の一部とみるか、珍の異体字とみるかで、和同開珎の呼び方が二つ(わどうかいほう派・わどうかいちん派)に分かれています。
玉宝
日本・文久永宝 略宝 1863年
越前藩主・松平春嶽公の筆と言われています。
● 変形字 双三
日本鐚銭・双三元豊通宝 16世紀

日本の中世に九州地方で作成されたビタ銭(改造鐚銭)には、特異な書体の文字が多く現れます。
名前のとおり、「三」が二つならんでいるように見えます。
工宝
日本鐚銭・天下手祥符通宝 16世紀

これも九州地方のビタ銭です。「工」にみえます。他に、「立」、「北」、「非」などに見えるものもあります。
● 図案文字 丸文字
日本鐚銭・円貝宝元豊通宝 16世紀

意図したわけではないでしょうが、よくまあ、これだけ丸くしたものです。
角文字
日本薩摩藩・琉球通宝 1862年

こちらの方は、意図的に四角文字にしているようです。

2002.9.29