宋の対銭、または符合銭

 中世、日本で使用された貨幣の大半は、宋で発行されたものです。
 宋銭の多くは、同じ面文のもので真・行・草書、または真・篆書になっているのですが、書体の違いを除くと、字の大きさや微妙なくせ、銭径の大きさ・厚さ、輪・穿(穴)の形状などが非常に似ているペアがあることに気が付いた人がいました。 寛政6年(1794)ころのことで、大坂の収集家安田而唐という人です。
 この不思議なペア銭は、現在では、「対銭」または「符合銭」と呼ばれています。
 この発見を受け、文政10年(1827)、名古屋の一豊舎其町が『符合泉志』という解説書を刊行しました。

 数百組あるこの符合銭のうち、分かり易い何組かを紹介します。

     ■ 皇宋通宝(1039~1054年発行)
分類名真書篆書特徴
大字
4文字とも大きく、均斉がとれている。
長通
広穿(穴が大きい)になり、その分文字が押しつぶされ、皇宋は横に長く、通宝は縦に長くなっている。
大通
皇宋の2字は小さく、通宝の2字は大きい。
小通
4文字とも小さい。
狭穿
濶縁(外縁が広い)になり、狭穿(内郭が小さい)になっている。
文字も小さい。
潤縁小字
さらに濶縁になり、その分4文字ともさらに小さい。
宋銭の中でこれだけの濶縁は珍しい。


     ■ 熈寧元宝(1068~1078年発行)
分類名真書篆書特徴
大字
文字が全体に大きい。 しかし寧の字だけはさほど大きくない。
中字
縁が少しだけ広くなり、その分文字が少しだけ小さくなる。
狭元
全体的に小字、特に元の字が小さく細長い。
また、宝の字が細長く、仰いで見える。
正郭
(錠熈寧)
熈の字の左側が錠前のように見えるので「錠熈寧」ともよばれる。
内郭がぴたっと正方形になっている。
面背四出
濶縁で小字。 文字の大きさは揃っている。
内郭の四隅よりとげが出ているように見える。


『符合泉志』は、初編、ニ編、三編の三回に分かれて刊行されました。 初編は文政10年4月、二編は文政11年3月、三編は文政12年5月です。
三編の奥付には”符合泉志四編近刻”とありますが、「四編」が発行されることはありませんでした。


参考文献 :
  一豊舎其町、「符合泉志」、文政10~12
  小川浩、「新訂北宋符合泉志」、日本古銭研究会、1976


2003.9.6 2021.2.17 大改訂  2021.5.20 再改訂