戦いに明け暮れた皇帝たち

  テレビや新聞のなかった時代、皇帝が国民に自分を宣伝する最大の方法はコインに自分の肖像をしるすことでした。紀元前には神を描くことが多かったコインですが、紀元後には皇帝を描くことが多くなりました。
  皇帝といっても決して楽な仕事ではなかったようです。戦いに明け暮れた皇帝たちを紹介します。
パルチア帝国 ボロガセス3世 148-192 ドラクマ銀貨

紀元前後の世界の3大帝国は、ローマ帝国、漢帝国とその間に位置したこのパルチア帝国です。
中国には「安息」として紹介されました。
まるでローマと戦うことが使命であるかのように常にローマと戦っていた国ですが、この皇帝もローマとの戦争に明け暮れたようです。一時は首都クテシフォンをローマ軍に陥落させられたこともありました。
このころのローマ皇帝はマルクス・アウレリウス・アントニヌス(中国名、大秦王安敦)でした。
18.0x20.5mm 3.65g
ローマ帝国 ゴルディアヌス3世 238-244 アントニニアヌス銀貨

日本人にはなじみの薄い皇帝ですが、悲劇の少年皇帝として知られています。
何しろ13歳で皇帝になり、19歳のとき、パルティアとの戦の中で、部下に裏切られて殺されたのです。
「君を共同皇帝にしよう・・・君が皇帝で私が副帝になってもいい・・・私があなたに仕えます・・・せめて命だけは・・・」
全ての願いにかつての部下の答えはNoだったのです。
21.4mm 4.62g
ササン朝ペルシャ帝国 ホルマッド4世 579-590 ドラクマ銀貨

パルチアがローマと戦っていたのと同じように、この国は東ローマ(ビザンチン)と常に戦っていました。
この皇帝も、西はビザンチンと、東は突厥・エフタルと、内では反乱軍と、戦いに明け暮れていました。
疲弊した帝国は、この後50年後に新興サラセン帝国に滅ぼされます。
30.0mm 3.8g
ビザンチン帝国 ヘラクリウス 610-641 ソリダス金貨

温厚な顔立ちはサンタクロースを思わせます。
このような顔立ちとは逆に、この皇帝も休む暇なく戦いの連続でした。
カルタゴ総督の子だったヘラクリウスは、帝国の期待をになって皇帝になりました。
一時は、かつての領土小アジア、シリア、エジプトを回復しますが、新興サラセン帝国により、それら全てを失ってしまいます。
「おおシリアよ、汝は敵にとって何と美わしい国であることか」・・・シリアを失ったときの皇帝の言葉です。
また、北からはスラブ人が侵入したり、将軍たちの裏切りがあったり、財政危機におちいったり、大変苦労した皇帝だったようです。
20.5mm 4.31g
参考文献
 デベボイス、「パルティアの歴史」、山川出版社、1993
 ギボン(中野好夫訳)、「ローマ帝国衰亡史」、ちくま学芸文庫、1995
 前嶋信次編、「西アジア史」、山川出版社、1972
 「ビザンディン帝国略史」、www.geocities.co.jp/CollegeLife-Labo/9837/history/ryakushi3.html

2001.7.14