古代のマイナーコイン

  金貨と銀貨で始まった地中海世界のコインも、紀元前4世紀ころから青銅貨が発行され始めました。やっと庶民の生活の中に入ってきたわけです。
  各地で思い思いのデザインで発行されました。
  東洋では、20mmより小さい銅貨はあまりありませんでしたが、この時代の地中海世界ではかなりたくさん発行されています。
  地中海世界は、紀元前1世紀ころまでにローマによって統一され、コインもローマのコインに置き換わるようになりました。
  地図は、吉川弘文館の「世界史地図」を利用しました。


①小アジア ミレトスの銅貨 紀元前4世紀
表 : アポロ神
裏 : ライオン
小アジアの西海岸にあったギリシャ人の都市国家、ミレトス(Miletos)で発行されたものです。
15.9mm 4.2g
②マケドニア フィリッポス2世の銅貨 紀元前4世紀
表 : アポロ神
裏 : 馬に乗ったフィリッポス2世。上部にΦIΛIΠΠOY(Philippoy)。
マケドニア王国のフィリッポス2世(359-336BC)が発行しました。アレキサンドロス大王の父です。
19.6mm 6.0g
③シリア セレウコス朝の銅貨 紀元前3世紀
表 : アンチオコス(Antiochos)Ⅱ世(在位261-246BC)
裏 : 立っているアポロ神。BAΣIΛEΩΣ、ANTIOXOY。
アレクサンドロス大王の没後、シリアにあったセレウコス朝が発行したコインです。
14.7mm 2.5g
④シチリアの都市国家の銅貨 紀元前3世紀
表 : アポロ神
裏 : 三脚台
シチリアにはギリシャ人とフェニキア人の都市国家がありました。
三脚台は、シチリア島の三つの岬を意味するシチリアのシンボルだったそうです。
13.2mm 1.8g
⑤マケドニア カッサンドロス朝の銅貨 紀元前3~2世紀
表 : ポセイドン神
裏 : アテネ神
アレクサンドロス帝国を受け継いだ一人のカッサンドロス朝のフィリッポス5世(221-179BC)。
16.0mm 2.8g
⑥南イタリア トリオイの銅貨 紀元前2世紀
表 : ヘラクレス
裏 : 牡牛の前半身。上にΘOY、左にΣΩ。
南イタリアにあったギリシャ人の都市国家、トリオイ(ツルイThurii)で発行されたものです。
このコインが発行されたころは、既にローマ共和国の一部になっていました。
11.0mm 1.2g
  紀元前3~2世紀のころのローマ共和国の軍団の兵士の年給は
      70デナリウス銀貨=700アス銅貨=青銅30Kg
でした。 軍団兵は非常につらい3Kだったとはいえ、衣食住・退職金つきだったことを考慮し、年俸を現在の300万円とすると、青銅1g=100円になります。
  これで計算すると、上のコインは1.2~6gですから、現在の120~600円くらいの価値となります。



  小さな銀貨も少し紹介します。
⑦南フランス マッサリアのオボル銀貨 紀元前4世紀
表 : アポロ神?
裏 : 幾何模様、MとA。
マッサリアは現在のマルセーユです。このころフェニキア人の植民都市がありました。
わずか0.5グラムの銀貨です。 6オボルが1ドラクマになります。 当時労働者の1日の賃金の目安は3オボルでした。
11.6mm 0.5g
⑧黒海西岸 イストラスの1/4ドラクマ銀貨 紀元前4世紀
表 : 女性ふたりの顔。
裏 : いるかを捕らえる鷲。上部にIΣTPIH。
なんとも不思議なデザインのコインです。
11.6mm 1.4g
  このころの人たちは財布を持ちませんでした。 買い物に行くときは、コインを口の中に含んでいたそうです。
  「この前、2人で1ドラクマの賃金をもらったんで、魚市場へ行って両替したんだ。 オボル銀貨を3枚くれたんで、口の中へポイと入れたのだ。 ところが臭いんだ。 吐き出したらオボル銀貨ではなくて、何とぼらの鱗(うろこ)だったんだよ。」   ・・・ アリストパーネス、『蜂』 より

2001.11.3  2002.5.5改訂