分類の難しさ ~ 古寛永通宝

  古寛永を収集し始めたころは、岡山、水戸、松本などどれを見ても同じにみえたり、銭譜に全く同じものがなければ、”新種発見!”と胸騒ぎし、そのうち、”新種”がいっぱい机の上に並んだりしたものでした。
  古寛永は、何種類くらいに分類されるのでしょうか。
   【青譜】では、428種
   【泉志】初版では、435種、改訂版では706種
   【入門】では約900種
に分類しています。
  大西氏は、現存する古寛永の数から、鋳地別、中分類別の推定鋳造量を発表されています。推定鋳造量の鋳地別の割合をグラフにしたのが右の図です。(鋳地は【泉志】の分類)
  コレクタの撰銭では、真っ先に建仁寺、沓谷、鳥越が取り除かれ、その数約半分になります。残りの半分が難しいのです、水戸? 岡山? 松本? ・・・ まるで日本旅行です。
  分類の難しさは、初心者だけではないようです。銭譜の作成者も悩んだようです。人によって、分類が異なるものがあります。そのような例を、銭譜の説明そのままと共に紹介します。

参考文献:
  大西良彦、「古寛永各座の鋳銭量と中分類構成比(私案)」、『収集』1988年10月号
  【青譜】 小川青宝楼、「寛永通宝銭譜」、日本古銭研究会、1972
  【泉志】 増尾富房、「古寛永泉志」、穴銭堂、初版1971、改訂版1976
  【入門】 静岡いづみ会、「穴銭入門(古寛永銭)」、『収集』連載、1988-91

● 松本太細? 岡山俯永手?
上 松本太細



中 【泉志】(称)岡山俯永手仰頭通 【入門】不知太細狭寛小字刔輪

【泉志】
「俯永手仰頭通」 通頭開き、仰いでいる。永尾もまた婉尾である。

【入門】
「太細狭寛」 太細本体に比べて、寛字が狭長に見える。フ画もやや昂っている。
「太細狭寛小字」 上にくらべて四字とも小字になっている。寛のサ画の横引きが短いのも特徴。
「太細狭寛小字刔輪」 上の変化で、やや刔輪されるとともに、銭文も細字になっている。旧書では俯永手にいれている。


下 岡山俯永手

【泉志】
「俯永手」 何処という特徴をもたないが、制作はしっかりしたものが多く、寛字見画の第一画と第五画が空いている。
● 長門裕字? 長門正字様?
上 長門裕字


中 【泉志】長門裕字異頭通 【青譜】・【入門】長門正字様異頭通

【泉志】
「長門裕字異頭通」 旧書ならびに諸譜ともに正字様として分類しているが裕字の書風なので新たにこの手に入れた。通頭が広い。

【入門】
「長門正字様異頭通」 通頭上辺が前部に向かって細くなる。正字様広永からの変化のように思われる。泉志では裕字に入れている。


下 長門正字様



● 水戸星文手? 水戸力永?
上 水戸星文手


中 【泉志】(称)水戸星文手遒勁 【入門】水戸力永低寛降永

【泉志】
「星文手遒勁」 一見遒勁背星刮去と紛らわしいが、未だこの背星銭は見ていない。力永の類に移行する過渡銭か。

【入門】
「力永低寛降永」 永頭が降り、郭よりやや離れる。寛目の第一画と第五画の間が空いている。泉志では星文手遒勁として分類もされている。

下 水戸力永低寛

● 水戸広永背異
コレクタを最も悩ます分類のひとつです。「背異」などといわれても、どう異なるのか理解に苦しみます。

上 水戸広永


中 水戸広永背異 という銭名で入手したもの

【泉志】
「(称)水戸広永背異」 銅色の帯白色から、非常に長門鋳のものと間違われ易い。内輪、背郭などに類品との隔たりがある。

【入門】
「水戸広永背異」 背郭がやや丸みを帯び、銅色のみ長門銭と隔たりがあるもの。

下 長門広永様 という銭名で入手したもの

【泉志】
「長門広永様」 広永には背異と分類した一手があり、同類の背郭と多少その制作を異にして居り、さればとて長門鋳と決定するには尚早の感をまぬがれない。掲図のものは長門銭特有の白銅色の衆目一致する制作のもので、存在は至って少ない。

2001.8.12 2004.3.7update