長崎元豊雑感

  長崎元豊は、普通35~40種に分類されていますが、一部の例外を除いて、集め易いものです。 識別もさほど難しくありません。
  そんな中で、少し気のついたことを書いてみました。 名称は原則として『本邦鐚銭図譜』に従いました。



(1)「縮通仰通」と「縮通狭元」とその中間
左、「縮通仰通」
中、「縮通狭元」 仰通に比べると、「元」の最後の跳ねが短い他、「宝」の上部(ウ、王、尓)の形状が異なります。
右、この二つの中間です。「元」は「縮通仰通」に似ていますが、「宝」の上部は「縮通狭元」と同じです。
2.1g 23.6mm/2.7g 23.4mm/2.9g 23.9mm

(2)「縮通長元」
ありふれた品なのですが、『本邦鐚銭図譜』には掲載されていません。 「元」がやたら高く、「豊」の最終画が斜めになっています。 独特の書体で、見分けは容易です。
3.2g 24.2mm

(3)大小ある「容弱」
「遒勁」の他は大きさがだいたい揃っている長崎元豊ですが、「容弱」の類だけは小ぶりなものがあります。
左:「容弱本体(長尾元?)」
右:「容弱本体(長尾元?)小様」
3.1g 23.9mm/3.1g 22.7mm

(4)2種類ある「縮字」
「縮字」は1種類のように思われがちですが、2種類あるようです。 『収集』の1982年1月号で発表されたのが最初だと思います。
左が本体で、右が本体でないもの(人によっては「長尾元」と呼んでいます)。
 右の方の特徴は次のとおりです。
「元」:やや大字かつ退元で、最後の跳ねが内郭の線近くまで届いている。
「宝」:最後の点が内郭側でなく、外輪側に向かって丸く跳ねる。 そのためか、宝字全体が仰いでみえる。
3.4g 23.9mm/2.8g 23.6mm

(5)「遒勁」の石蹴り
左:「遒勁大字石蹴り」
右:「遒勁小字濶縁石蹴り様」
遒勁の類は、字画の鋳切れがあるのが多く、最も有名なのが「大字石蹴り」です。 豊字の上部の鋳切れの状態も、識別のポイントです。(右図参照)
小字の方も、字画に鋳切れのあるものが多く、元の前足の先が二箇所で切れています。
2.5g 24.2mm/4.2g 25.4mm

(6)長崎元豊の写し 鋳地不明
長崎元豊には、安南での写し銭が多くみられます。 しかし、これは背を見る限り中世の鋳写し鐚銭風。 また銅色も赤く、東北産かとも思うのですが、面の様子に今ひとつ味がありません。 やはり安南銭か?
1.4g 21.7mm


  【クイズ】 
     現在のベトナムの通貨単位は『ドン』です。 このドンの語源は何でしょうか?



参考文献:
  増尾富房、「本邦鐚銭図譜」、穴銭堂、1982
  坂井博文、「九州銭の収集と研究」、『収集』1992~94連載

2002.6.15