一文と一両の価値

二束三文  猫に小判  千両役者
早起きは三文の得(朝起きは三文の徳)  早起き三両宵寝は五両  一文惜しみの百失い
聞いた百文より見た一文  末の百両より今の五十両  御意見五両堪忍十両

 よく、江戸時代の一文銭や一両小判は今のどれくらいの価値があったのかと聞かれます。
 一口に1文が何円、1両が何円とは答えられません。 それには次のような理由があります。
  (1)江戸時代は、金貨、銀貨、銭貨の3種類の貨幣が共存していて、それらが別々の相場でした。
     まるで一つの国の中に、円とドルとユーロがあるようなものです。
  (2)江戸時代は300年近くあります。元禄の改鋳を初め、貨幣の品質が260年間でだんだん低下していきました。
     品質が下がると、当然物価は上昇します。
  (3)現在より、保存と輸送に費用がかかる時代でした。飢饉になれば物価は高騰します。場所や季節による価格差も今以上に顕著でした。
  (4)現在と、ものやサービスの価値が大きく異なります。一般に食べ物は今より高く、賃金や土地は今より安かったようです。


 ● 金:銀:銭の相場
 江戸時代は、金貨、銀貨、銭貨の3種類の通貨があり、これらの間には相場関係がありました。 まるで、一つの国の中に円とドルとユーロがあるみたいでした。
 江戸初期には、金:銀:銭の公定相場がありました。
 ○慶長14年(1609)
    金1両=銀50匁=銭4000文
    (このころの銭は寛永通宝ではなく、中世からの渡来銭です。)
 ○元禄13年(1700)
    金1両=銀60匁=銭4000文
    (元禄の改鋳の直後です。)
 江戸中期以降は、右のグラフのように、
    金1両=銀62匁くらい=銭6600文くらい
でした。

 ● お米の値段
 右のグラフは江戸時代の米相場(米1石あたり銀匁)です。
 当時の人は、今以上にお米に対する依存度が高く、1日にお米5合(1年で1.8石)を消費しました。
 戦乱や飢饉のときに大きく高騰している様子がわかります。
 この相場は、主に大坂で商人が大量取引したときの相場です。


 このころの人たちは、お米の値段を次のように表わしました。
     米一石につき銀□匁□分  ・・・ 商人が大量取引するとき ・・・ 上のグラフです
     金十両につき米□俵    ・・・ これも、商人が大量取引するとき(1俵の大きさは地方によって異なる)
     金一両につき米□石□斗  ・・・ 武士が俸給の米を売却するとき
     米一升につき銭□文    ・・・ 消費者が買うとき(関西地方)
     銭百文につき米□升□合  ・・・ 消費者が買うとき(関東地方)
     米百俵につき金□両    ・・・ 幕府が蔵米取りの武士に現金で支給するとき(「御張紙値段」という。100俵は35石)


 馬子 「アノお江戸は、米がいくらしおります。」
 北八 「マア一升二合、よい所で(一升)一合ぐらゐよ。」
 馬子 「ソリャいくらに。」
 北八 「しれた事、百(文)にさ。」
                            ・・・・   十返舎一九 『東海道膝栗毛』

 天保元年、二年は豊作であつた。三年の春は寒気が強く、気候が不順になつて、江戸で白米が小売百文に付五合になつた。文政頃百文に付三升であつたのだから、非常な騰貴である。
 四年には出羽の洪水のために、江戸で白米が一両に付四斗、百文に付四合とまでなつた。卸値は文政頃一両に付二石であつたのである。
 五年になつても江戸で最高価格が前年と同じであつた。
 七年には五月から寒くなつて雨が続き、秋洪水があつて、白米が江戸で一両に付一斗二升、百文に付二合とまでなつた。
 大阪では江戸程の騰貴を見なかつたらしいが、当時大阪総年寄をしてゐた今井官之助、後に克復と云つた人の話に、一石二十七匁五分の白米が二百匁近くなつてゐたと云ふことである。いかにも一石百八十七匁と云ふ記載がある。金一両銀六十匁銭六貫五百文の比例で換算して見ると、平常の一石二十七匁五分は一両に付二石一斗八升となり、一石百八十七匁は一両に付三斗二升となる。
                            ・・・・   森鴎外 『大塩平八郎』


 ● 値段の移り変わり
 その他の値段の移り変わりを調べてみました。
 米1升は、2人家族1日の主食です。
 下女は、飯炊き、雑用などが出来る程度の人の住込み3食付の1年間の給金です。裁縫などができると、もっと高かったそうです。
 値段はだいたい、江戸のものです。 おおよその値段と考えてください。 特に米の値段は、豊作・不作、季節などによって大きく変動することがありました。
 明治以降は、参考のため掲載しました。

米1升(小売値)そば(もり、かけ)銭湯(大人)大工さんの賃金(1日)下女の給金(年)
慶長・元和1596-162325文    
寛永1624-164330文 6文銀1匁6分(86文)0.5両(1日6文)
寛文1661-167250文6文6文銀3匁(200文)1.0両(1日11文)
元禄1688-170380文8文6文 1.5両(1日17文)
享保・元文1716-174080文 6文 2.0両(1日25文)
宝暦・明和1751-1771100文16文6文  
文化・文政1804-1829120文16文6~8文銀3~5匁(330~550文)2.5両(1日50文)
天保1830-1853150文16文6~8文  
慶応1865-1867500~1000文20~24文12~24文銀15~20匁(1100~1500文) 
明治33年190016銭1銭5厘2銭66銭19円(1日5銭)
昭和35年1960124円35円17円800円
平成12年2000700円474円394円18,940円


 ● 円との比較
 江戸時代の中でも比較的物価が安定していた文化文政時代(1820年ころ)の物価と現在の物価を比較してみました。 江戸または東京の値段です。
 このころは、金1両=銀60~65匁=銭6500~7000文、銀1匁=銭108文くらいでした。
 表の上の方ほど当時高価だったもの、下の方ほど当時安価だったものです。
  文化文政時代(1820年頃) 平成時代(2000年頃)

:円



:円
食  べ  も  の
砂糖 1斤=銀4匁 1Kg=211円 0.28円 1900円
菜種油 1升=銀3~4匁 サラダ油1.5Kg=493円 1.5円 1万円
煙草 1玉(5匁)=148文 ハイライト1箱=250円 1.5円 1万円
たまご 1個=7~20文 1Kg=309円 1~3円 7000~2万円
豆腐 1丁=56~60文 300g=102円 2円 1.4万円
小麦 1石=銀50匁 1Kg=165円 4.3円 3万円
弁当 100文 500円 5円 3.4万円
沢庵大根 1本=15文(500gくらい) 大根1Kg=161円 5.4円 3.7万円
100文=8合 10Kg=4934円 6円 4万円
お茶漬け 上等72文 500円 7円 4.8万円
みそ 1貫=160文 1Kg=333円 8円 5.4万円
お茶 中級1斤=550~580文
(お茶の1斤は200匁)
100g=641円 8.5円 5.8万円
1升=200~248文 1.8リットル=2252円 10円 7万円
飲み水 井戸の水は基本的には無料
きれいな水1荷(20リットル?)=100~200文
水道代10立方メートル=966円
ミネラルウォータ2リットル=200円

10~20円

7~14万円
1升=16文 1Kg=112円 15円 10万円
握りずし 1個=8文 1人前=1211円 20円 14万円
すいか 38文 1000円 26円 17万円
そば(もり、かけ) 16文 474円 30円 20万円
居酒屋の湯豆腐 8文 300~400円 40~50円 27~35万円
なす 10個=5~10文 1Kg=612円 50~100円 35~70万円
賃 金、サ ー ビ ス 料
医者初診料 銀10~15匁 2500~5000円 2~3円 1.4~2万円
飛脚 大坂⇔江戸書状並便=銀3分
(届くまでに25日くらいかかった!)
郵便手紙=80円 2.4円 1.6万円
駕籠代 1里=300~400文 タクシー4Km=1300円 4円 2.7万円
歌舞伎入場料 桟敷席=銀35匁 歌舞伎座桟敷席=16800円 4.4円 3万円
奉行所同心の年収 70俵5人扶持(金28両相当) 国家公務員(35歳)=550万円 30円 20万円
大工さんの日当 銀3~5匁 18940円 35~55円 24~38万円
あんま 48文 30分=1500~3000円 30~60円 20~40万円
大道易者 24文 1000~1500円 40~60円 27~40万円
芝居見物 両国の芝居=32文 映画観覧料=1800円 56円 38万円
旅籠賃 中等(1泊2食付き)200文 ホテル(1泊2食付き)12810円 60円 40万円
銭湯 6~8文 394円 70~80円 48~54万円
寄席入場料 16~28文 2000円 70~120円 50~80万円
結髪料(男) 男1人=32文 理髪大1人=3612円 100円 70万円
結髪料(女) 女1人=50文 パーマネント1人=7711円 150円 100万円
寺子屋 謝儀 200文~金1分
(謝儀は年間5回)
公立中学校=無料
私立中学校1月=35,090円

50~400円

35~270万円
下女給金 武家階層は下女を雇うしきたりがあった
年間食事つきで2~3両
住みこみ家政婦
1日16000円
300~450円 200~300万円
そ   の   他
純銀 文政銀1匁=純銀1.35g相当 1g=18.75円 0.23円 1600円
富くじ 湯島天神の富くじ1枚=金2朱 ジャンボ宝くじ1枚=300円 0.35円 2400円
燈明油 1合=41文(約20時間分) 電気代1kWh=24円 1円 6800円
純金 文政小判1両=純金7.8g相当 1g=1014円 1.1円 7500円
手ぬぐい 104~108文 タオル=100~200円 1~2円 7000~1.4万円
草鞋 1足=16文
(旅で使うと1日しかもたなかった)
男子革靴=13820円
(1年は使える)
2.5円 1.7万円
廉価販売 三十八文見せ(店) 100円ショップ 3円 2万円
番傘=200~300文
蛇の目傘=800文
ビニール傘=500円
男子洋傘=3661円
2円
4.6円
1.4万円
3万円
縞木綿 1反=銀10匁 1反=3800円 6円 4万円
長屋の家賃
(坪あたり)
割長屋1月1坪=銀3匁
(棟割長屋だとこの半分の値段)
民営借家1月1坪=8680円 27円 18万円
歯磨き粉 1袋=6~8文(1~2ヵ月分) 練り歯磨き1本=213円 30円 20万円
草双紙 16文 文庫本=500円 30円 20万円
富くじの1等賞金 湯島天神の富くじの1等=金600両 ジャンボ宝くじの1等=2億円 50円 33万円
長屋の家賃
(世帯あたり)
割長屋1月=銀10匁
(日本橋近く、九尺二間(3坪))
民営借家1月=10~15万円
(新宿区、2DK)
100~150円 70~100万円
農地 1反(300坪)=1.5~3両 1坪=0.5~1万円 150円 100万円
国家予算
(人口1人あたり)
150万両÷700万人=0.2両
(江戸幕府の財政支出÷天領の人口)
80兆円÷1.2億人=70万円
(政府一般会計÷総人口)
500円 350万円
貨幣の流通量
(人口1人あたり)
3600万両÷3000万人=1.2両 630兆円÷1.2億人=500万円 600円 420万円
江戸の土地
(最も高いところ)
小間(20坪)=360両
(南伝馬町一丁目)
1坪=9000万円
(銀座5丁目の実売価格)
750円 500万円
比較が難しいもの
こわれた傘 修理して再利用する
10文前後で売れる
ごみとして捨てる
回収費の必要な自治体もある
   
人の糞 下肥として農家が買いに来る
1人1年間分で1両近かった
上下水道料金に含まれる
1人1年間分で1万円くらいか
   
両替 金銀貨を銭に両替する手数料(切賃)
1両につき30~60文(0.5~1%)
銀行で無料で両替してくれる    

 (1升=1.4Kg(米)、2.2Kg(塩)、1.5Kg(みそ)で計算しました。)
   ・食べ物を基準にすると、1文=5~30円、1両=4~20万円、
   ・労賃を基準にすると、1文=30~50円、1両=20~35万円
くらいといったところでしょうか。

参考文献

江戸時代の物価:
  小野武雄、「江戸物価事典」、展望社、1980
  村上他、「日本史資料総覧」、東京書籍、1986
  中江克巳、「江戸時代に生きたなら」、廣済堂出版、1993
  成松佐恵子、「庄屋日記にみる江戸の世相と暮らし」、ミネルヴァ書房、2000
  NHK趣味悠々、「古文書を読んでみよう」、NHK出版、2001
  三好一光、「江戸生業物価事典」、青蛙社、2002
  小沢詠美子、「お江戸の経済事情」、東京堂出版、2002
  本田康雄校注、「浮世床.四十八癖 金銭物価等対照索引」、新潮日本古典集成、1982
現代の物価:
  週刊朝日編、「値段史年表」、朝日新聞社、1988
  週刊朝日編、「戦後値段史年表」、朝日文庫、1995
  総務省統計局統計センター、「東京都区部の年平均小売価格」、http://www.stat.go.jp/data/nenkan/zuhyou/y1513000.xls
  その他、いろいろなホームページ、近所のスーパーなど

2002.12.23 「寛永通宝」より独立して改訂。 その後しばしば改訂しています。