文久永宝の分類

 文久永宝は、文久2年(1862年)、これまでの寛永通宝当四銭の量目を減らして新たに鋳造されたものです。寛永通宝当四銭が1.3匁だったのに対して、0.9匁の規定でした。
 金座(草文と玉宝)と銀座(真文系)が分担しました。銭文の筆者は、
   玉宝:松平春嶽(越前藩主)
   草文:老中・板倉勝静(備中松山藩主)
   真文:老中格・小笠原長行(肥前唐津藩主)
と伝えられています。
 鋳造は、明治2年まで続けられ、7年間の鋳造高は8.9億枚との記録があります。

参考文献:
  【相】相澤平佶、「文久泉譜」、巌南堂書店、1967
  【ボ】「ボナンザミニ入門・文久永宝」、ボナンザ、1974
  【会】会瀬浜太郎、「文久永宝分類抄」、『銭貨』連載、1979~81
  【増】増尾富房・和之、「東洋古銭図録(上巻)」、穴銭堂、1977
  【小】小林茂之、「文久永宝分類譜」、天保堂

 文献【会】によると、大分類ごとの存在比率は右図の通りです。「草文」が4割以上を占めています。一方、最も少ない「直永」は、0.1%です。

   
 ● 真文深字、深字手
No.1

深字狭永

面の谷が深いのが第一の特徴で、そのため「深字」と呼ばれている。
4文字ともこじんまりとして、平均して肥字である。
宝字が降っているのが最大の見分け方のポイントで、冠の位置をみれば「深字」、「深字手」は容易に他から識別できる。
「深字」の中で、永頭がやや短く、フ画が内郭から離れているものを「深字狭永」と分類する。
26.2mm 3.6g
【相】正文深字狭永 五
【ボ】深字狭永
【会】深字狭永 五
【増】深字 五
【小】深字 五
No.2

深字狭永勁久

上の「深字狭永」の小変化である。
久字の初画にひっかけがあり、末尾のふんばりが深く反りかつ跳ねが力強い。

26.2mm 3.1g
【相】
【ボ】深字狭永勁久
【会】
【増】深字勁文 五
【小】深字勁久 六
No.3

深字狭永降久

これも「深字狭永」の小変化である。
久字の位置が低く、内郭との間に空間ができている。
永の頭が短く、フ画が急角度の直線的である。
文献【相】によると、これが文久銭中第一の稀品だそうである。

26.3mm 3.7g
【相】正文深字降久 一
【ボ】深字狭永降久
【会】深字降久 三
【増】深字降久 二
【小】深字降久 六
No.4

深字広永

「深字狭永」との差異は、永頭が長く、フ画も幅広くなり内郭に接する点である。
文字末画が高いところ(第二画の真横)から出ているのも特徴の一つ。
鋳浚いの小変化が多く、俯尓、勁文、俯頭永、狭尓、仰貝宝などに細分類する銭譜もある。

26.7mm 4.1g
【相】正字深字広永 五
【ボ】深字広永
【会】深字広永 七
【増】深字広永 七
【小】深字濶永 七
No.5

深字手広久

「深字」とよく似た書体であるが、谷が浅いため「深字手」と呼ばれる。
「深字」との書体の差は、宝字王画が「深字」では斜めになっているのに対して、「深字手」では水平で大きく、貝画に接していることである。
26.5mm 3.9g
【相】
【ボ】深字手広久
【会】深字広永深字手 九
【増】
【小】深字手広久 八
No.6

深字手短久

「深字手広久」とよく似ているが、久の前足が短く、外輪に接さない。


26.4mm 2.7g
【相】正文短久 十
【ボ】深字手短久
【会】短久 十
【増】深字手短久 九
【小】深字手短久 十
 ● 真文直永
No.7

直 永

永字の柱が垂直でまっすぐなので「直永」と呼ばれる。
文字全体にやや肥字で、縦に長い。
宝字が内郭から離れているのも目立つ。
宝冠の末尾が跳ねないもの、宝前足の跳ねるものなど、字画が削られたものがあり、「削字」と名づけられている。

26.5mm 3.5g
【相】正文直永 四
【ボ】直永
【会】直永 五
【増】直永 四
【小】直永 五
No.8

直永進点永

「直永」に比べ、永点が小さく、向って左に進んでいる。
また、宝字の前足の長いものが多い。

26.2mm 3.5g
【相】正文直永小点永 三
【ボ】直永進点永
【会】直永進点永 五
【増】直永小点永 四
【小】直永進点永 四
No.9

直永狭穿

「直永」に比べ、狭穿(穴が小さい)。
文字の大きさは同じのため、4つの文字が内郭から離れている。

26.5mm 3.9g
【相】
【ボ】直永狭穿
【会】直永狭穿 四
【増】直永狭穿 四
【小】直永狭穿 五
 ● 真文細字、繊字
No.10

細 字

「直永手」と呼ぶ人もいるが、「直永」より文字が大きく、永柱が丸く反っている。
宝字尓画の縦棒が傾くのも特徴の一つである。
鋳浚いによる変化が多く、離足宝、垂足宝、狭頭久などに細分類する銭譜もある。

26.7mm 3.8g
【相】正文繊字異永 七
【ボ】真文細字
【会】直永手 十、細字 十
【増】細字 十
【小】直永手細字 十
No.11

細字長宝

「細字」の小変化である。稀少で有名だが、筆勢は名品ではない。
宝字が小さく、狭長でかつ少し仰いでいるため、内郭との間に大きな空間が出来ている。

26.5mm 3.6g
【相】正文繊字仰宝 三
【ボ】真文細字長宝
【会】細字長宝 三
【増】細字長宝 二
【小】直永手細字長宝 六
No.12

細字跛宝

「細字」の小変化であり、宝の後足が短くかつ前進しているのでこの名がある。
文と久字の末尾の跳ねが力強く、永字フ画の横引きの反りが強い。
刔輪されており、特に宝字と外輪との間に空間が目立つ。

27.0mm 3.5g
【相】正文繊字刔輪 六
【ボ】真文細字跛宝刔輪
【会】細字刔輪 九
【増】細字跛宝刔輪 八
【小】直永手細字跛宝 八
No.13

繊 字

「細字」より細いので「繊字」と呼ばれている。
「細字」と比べると次の相違点がある。
・永字フ画やや仰ぎ、末尾が短い。
・久頭の爪が鋭い。
・宝字尓画の縦棒の傾きが少ない。
いずれも微細な差異のため、識別しがたいものも多い。
27.0mm 4.5g
【相】正文繊字 九
【ボ】繊字
【会】繊字 十
【増】繊字 十
【小】直永手細字繊字 十
 ● 真文楷書
No.14

楷書背高波

整った字で、変化も少ないので識別は容易である。
面背とも細縁かつ広郭のものが多く、外縁と内郭の様子だけで識別できることが多い。

26.3mm 3.2g
【相】真文正足宝など 九
【ボ】楷書背高波
【会】楷書高波 九
【増】楷書 十
【小】楷書 十
No.15

楷書背低波

「楷書背高波」に比べると背の波が低いのでこの名がある。
その他にも「背高波」に比べて書体に細かい差異があるが、微々たるものである。


26.2mm 3.4g
【相】真文長点文 九
【ボ】楷書背低波
【会】楷書低波 九
【増】
【小】楷書広穿広郭 十
 ● 草  文
No.16

草文広郭

雄大な書体である。
磨輪銭や内郭が削られて細くなったもの(削郭)もあるが、次の「中郭」「細郭」とは書体が異なり、
・宝字貝画の二引きが短く、前半しかない
・宝字の後足が大きい
の差があるため、識別は容易である。
26.7mm 3.6g
【相】草文広郭 九
【ボ】草文真宝濶縁広郭
【会】草文正宝広郭 九
【増】草文広郭 十
【小】草文濶縁広郭 十
No.17

草文中郭

細縁かつやや刔輪気味である。
「広郭」と書体が異なることは上覧を参照のこと。

26.6mm 4.0g
【相】草文中郭 九
【ボ】草文真宝中郭
【会】草文正宝中郭 十
【増】草文中郭 十
【小】草文中郭 十
No.18

草文細郭

「中郭」がさらに細郭になったものであるが、書体に差は全くなく、従って中郭と細郭の中間程度のものもある。


27.2mm 4.1g
【相】草文細郭 十
【ボ】草文真宝細郭
【会】草文正宝細郭 十
【増】草文細郭 十
【小】草文細郭 十
No.19

草文長郭勁文

全体に筆勢が強く、特に文字末画は長く、永字の頭近くまで達している。
内郭が長く、そのため宝字が降って見える(宝冠の位置に注目)。
背波の最下部が、草文中では最も幅が広い。

27.1mm 3.8g
【相】草文長孔勁文 四
【ボ】草文真宝長郭
【会】草文正宝長郭降宝 六
【増】草文長郭勁文 八
【小】草文長郭 八
 ● 略  宝
No.20

略宝広郭

略宝の中では最も肥字で、特に久字が太い。
美銭が多い。

26.6mm 3.3g
【相】玉宝広郭 九
【ボ】草文略宝濶縁広郭
【会】草文略宝広郭 九
【増】玉宝広郭 十
【小】玉宝濶縁広郭肥字 十
No.21

略宝中郭

やや細縁かつ中郭になる。
文字もやや細くなる。
背の波の位置が、「広郭」より高い位置にある。

26.7mm 3.9g
【相】玉宝中郭 十
【ボ】草文略宝中郭
【会】草文略宝中郭 九
【増】玉宝中郭 十
【小】玉宝中郭 十
No.22

略宝細郭

文字と背波は「中郭」と同じであるが、細郭かつ広穿になる。


26.6mm 3.9g
【相】玉宝細郭 十
【ボ】草文略宝細郭
【会】草文略宝細郭 九
【増】玉宝細郭 十
【小】玉宝細郭 十
 ● その他
No.23

恩賜手

未使用状態でやすり目がついたものは「恩賜手」と呼ばれている。
明治天皇が江戸に着かれたときに下賜するために作成したとの言い伝えであるが、定かでない。
やすり目だけだと、後世の付与もできるため、谷の状態を観察することも重要である。

26.3mm 3.3g
【相】
【ボ】
【会】
【増】
【小】
No.24

彷鋳銅銭

秋田地方の彷鋳品と思われる銅質である。
重さも規定の半分しかない。

25.3mm 1.8g
【相】秋田鋳 
【ボ】
【会】
【増】
【小】東北地方私鋳銭
No.25

彷鋳鉄銭

東北地方の彷鋳品と思われる。
寛永通宝当四銭の彷鋳鉄銭は多いが、文久銭の鉄銭は少ない。
しかし左の品、ス穴が大きく、出来栄えは悪い。

25.8mm 2.8g
【相】
【ボ】
【会】
【増】
【小】

2004.3.28