寛永御蔵銭の分類

 寛永13年より、江戸浅草橋場で「寛永通宝」が発行されました。 江戸幕府最初の銭の発行です。 通常「御蔵銭(おくらせん)」と呼ばれています。 銭文は佐々木志津麿という人の書と伝えられ、あまりにも変化が多いため「志津麿百手」とも俗称されています。 文献【穴】では151種類に分類しています。
 コインを鑑賞するだけのためなら、細かい分類は必要ありませんが、つくりや成り立ちを知るには、先輩達が研究した分類方法を知るのが近道です。 この御蔵銭の大分類の特徴を紹介します。
 1枚ごとに異なるといわれる御蔵銭です。 以下の分類の特徴は、あくまで包括的な特徴であり、個々を見てみると、どっちつかずのものや、”小さい字の「大字」”があったりして、識別には苦労します。

参考文献:
  【青】小川青宝楼、「寛永通宝銭譜」、日本古銭研究会、1973
  【増】増尾富房、「改訂版.古寛永泉志」、穴銭堂、1976
  【小】小林茂之、「古寛永入門」、『趣味情報』1975
  【穴】「穴銭入門-寛永通宝(古寛永銭)」、『収集』1988~91
  【赤】赤羽根秀一、「寛永通宝(古寛永銭)大分類の手引き」、古仙堂、1976


   

 ● 正字、大字、跳永 

  - 永字に注目。 永字ノ画が長く、まっすぐ伸びている。
No.1

正 字

御蔵銭の中で最もくせがない。
4文字の大きさは中間くらいで、程よく銭間に配置されている。
隔輪、離郭気味。 また、鋳だまりが少ない。
寛 : 目画が俯し気味。
永 : ノ画の上端は永頭くらいの高さである。
    末画に筆溜まりがある。
    両跳ねはあまり湾曲せず、かつ短いものが多い。
通 : 通頭の俯すものが多い。
24.0mm 3.3g
【青】中字 八
【増】正字 八
【小】正字
【穴】正字 17
【赤】正字
No.2

大 字

4文字とも大きい。ただし、末鋳になるとだんだん小さくなる。
文字に太細の変化がある。 背細縁細郭が多い。
寛 : 寛字全体が丸みを帯び、前足が湾曲するものが多い。
    目画はやや広い。 後足が郭より右に出る。
永 : ノ画が長く、上端が永頭より高い。
    両端は、正字より湾曲する。

24.0mm 4.1g
【青】大字 八
【増】大字 八
【小】大字
【穴】大字 17
【赤】大字
No.3

跳 永

全般的には、大字に似る。
永 : ノ画の上端が永頭より高い(大字よりは低い)。
    フ画が大きく、その先が強く跳ねる。
    両端の跳ねは、大字より跳ねる。
通 : コ頭の縦画が俯しているため、右端がねこ背になっている。

24.0mm 2.7g
【青】中字挑永 七
【増】跳永 八
【小】跳永
【穴】跳永 17
【赤】跳永

 ● 大 永 

   - 永字が特徴的。 平たくて、横に大きい。

No.4

大 永

のびのびとしている書風である。 小変化が極めて多い。
御蔵銭の中では最も存在が多く、全体の30%くらいを占める。
永 : 平たくて、横に大きい。 柱が仰ぐ。 末尾が長く延びる。
    両端に筆溜まりはない。
宝 : 目画が仰ぎ気味(正字系と反対)。

24.0mm 3.7g
【青】大永 七
【増】大永 八
【小】大永
【穴】大永 17
【赤】大永

 ● 大寛、長尾寛、縮寛、広永、小永、小字

  - 永字のノ画は小さい。 分類は寛字に注目。
No.5

大 寛

寛と宝の2字が、他の2字に比べてやや大きい。
寛 : 縦に長く大きい。
    両足の分岐点がはっきりし、前に進んでいることが多い。
    冠の前垂れが長く突き出している。
    後足が方曲して高い。
通 : 仰頭通が多い。
宝 : 後足の長いものが多い。

23.5mm 2.8g
【青】大寛 八
【増】大寛 七
【小】大寛、大寛手
【穴】大寛 15
【赤】大寛
No.6

長尾寛

肥字で、浅字が多い。
寛 : 大寛よりは寛足が低い。 寛目が大きい。
    寛尾が長く肥字で、貝二引きの上端にまで達している。
永 : 仰頭永になっている。
    両端は広く、筆溜まりのあるものとないものがある。
通 : 仰頭通が多い。

23.8mm 3.1g
【青】
【増】長尾寛 八
【小】長尾寛、長尾寛手
【穴】長尾寛 17
【赤】長尾寛
No.7

縮 寛

全体的には大寛・小永に似る。 背細縁が多い。
寛 : 全体に縮む。 前垂れが小さくて短く、目画に近づく。
    寛尾はあまり長くない。

23.9mm 2.9g
【青】
【増】縮寛 八
【小】縮寛
【穴】縮寛 16
【赤】縮寛
No.8

広 永

全体的には小字に似る。
寛 : 目画がやや小さい。 寛尾は通常肥えている。
    長尾寛よりは寛足が高く、分岐点がはっきりしている。
永 : 大きいが大永ほどではない。 フ画反り、柱より離れる。
    両端に筆溜まりがある。
宝 : 通頭が用画より前に出る。
23.7mm 2.7g
永字両末端の筆溜まりの位置:
【青】
【増】長尾寛広永 八
【小】広永
【穴】広永 17
【赤】広永
No.9

小 永

大寛に似る。 面濶縁、背細縁が多い。 また深字が多い。
寛 : 冠が深く、冠の後肩に丸みがある。
    寛尾はまっすぐで長い。
永 : やや小さい。 平たくはない。 フ画の反りが少ない。
    両末端の筆溜まりがない。
宝 : 冠が狭く、内郭より離れる。

24.4mm 3.4g
【青】大寛小永 八
【増】小永 八
【小】小永、小永手
【穴】小永 16
【赤】小永
No.10

小 字

4文字とも小さい。 広永に似る。 肥字でないものが多い。
寛 : 足が狭く、後方が揚る。
永 : 跳ねが力強く、狭い。 最末画にのみ筆溜まりがある。

24.2mm 3.7g
【青】小字 九
【増】小字 八
【小】小字
【穴】小字 17
【赤】小字

 ● 長 永 - 三箇所の凹みを見る。 絶対的な識別方法ではないが、通常はこれで十分。

No.11

長 永

4文字とも肥字が多い。
永字上部、宝貝の爪の下、宝前足延長上の輪の内部の三箇所に凹みがあるものが多い。
(しかし、左の品はこのどこにも凹みはない。 ご批判を乞う。)
寛 : 前垂れが長く、力強い。
永 : 柱が長く、後ろに退く。 フ画が末尾より長く、柱より離れる。
    ノ画は短い。
通 : 辵頭の俯度が小さい。
宝 : 宝目広く、後足が湾曲している。
24.5mm 3.9g
【青】
【増】長永 三
【小】長永
【穴】長永 4
【赤】長永

2004.4.3