ヒトラーのニセ札

1938年発行 イギリスの5ポンド紙幣
単一色で、裏面に印刷はない
(画像は Colnect より)

 第二次大戦のさなか、ナチスドイツはなんとニセ札を作る計画をたてました。 イギリスの紙幣です。 もちろん国際法違反です。
この話が、NHK BS プレミアムの、
ダークサイド・ミステリー「闇の世界戦略 ”ヒトラーのニセ札” 事件~紙幣の秘密~」 で放映されました(2020.9.17 21:00~22:00)。
 計画は極秘裏に進められました。 絶対の機密を守るため、ユダヤ人の強制収容所内に工場を建て、25名のユダヤ人の技術者たちに作らせました。

 困難は幾つかありました。 まずは紙幣の材料です。 イギリス紙幣を詳しく分析して、トルコ産の亜麻とハンガリー産の苧麻(ちょま)だと分かりましたが、これらから紙をすいてみたものの、何か手触りが違います。 すかしも鮮明ではありません。
 イギリスに潜んでいたナチスの諜報員から、驚くべき情報が得られました。 なんと、原料から直接紙を作るのではなく、いったん麻布をつくり、その布をボロボロにしてから細かく裁断し、そこからより細かな繊維の紙を作ったのです。

 次に印刷原版です。 イングランド銀行は、10万枚印刷するごとに、原版に微妙な手を加えました。 模様や文字の一部を微妙に変更するのです。 100カ所くらいあったそうです。 ナチスの製造工場もこの微差を完全には克服できませんでした。 ナチスは製造したニセ札をスイスの銀行に持ち込んでみました。 しかしスイスの銀行では見破れませんでした。
 それはイングランド銀行が、正確な鑑定方法を機密事項として、外国の銀行には教えていなかっためです。

 ナチスの当初計画では、当時のポンド流通量の30倍の300億ポンドを製造してヨーロッパ中にばらまき、ポンドを無価値にする計画でした。 実際に製造されたのは1.3億ポンドで、そのうち1000万ポンドが、武器購入や諜報活動などで使われました。 これは現在の日本の560億円に相当するそうです。

 ユダヤ人の技術者たちには、十分な食料と睡眠時間が与えられていました。 しかし、いやいやながらニセ札を製造させられていた彼らは、印刷原版を汚すなどの遅延行為で抵抗しました。 効率が悪いことを監督官に咎められると、「効率を上げるためには中国製の筆が必要です」などど実現できない嘘をいいました。
 また彼らは、できあがったニセ札にちょっとした目印を付けました。 イギリスの人たちは、札束にピン穴をあけて束ねる習慣がありましたが、左上のブリタニア像のところには、決して穴をあけませんでした。 彼らはここにこそっと穴をあけたのです。 そのため、戦後多くのニセ札を容易に識別することが出来ました。

 終戦間際になって、偽造の対象がイギリスポンドから、アメリカドルに切り替えられましたが、終戦までには実現しませんでした。
 ●なぜドルが必要になったのでしょうか考えてみてください。(答えを知ると、なるほどねーと思います)●


紙幣左上のブリタニア像 左が本物、右がヒトラーのニセ札
(画像は Colnect より)

 ニセ札製造は、重大な国際法違反です。 しかし、戦後この事件が大きく扱われることはありませんでした。 ニセ札の流通を許してしまったイングランド銀行のメンツもあったようです。

 日中戦争のさなかに、日本陸軍の登戸研究所で中国のニセ札を印刷していたそうです。 そんな話も詳しく知りたくなりました。

●の解答は ⇒こちら

 2020.9.18