「デマレシオン」
デマレシオン
紀元前5世紀にシラクサで発行された10ドラクマ銀貨 43.10g 37mm
画像出典 "Meisterwerke des Münzkabinetts"
ローレンス・サンダースの長編推理小説『汝盗むなかれ』のお話です。
ダンクはニューヨークのコイン店に勤める女店員。 背が高く、バスケットボールでダンクシュートを決めたことから「ダンク」のニックネームで呼ばれています。
あるとき、マンハッタンの富豪から、所蔵品のコインコレクションの競売を委託されました。 その中には、世界の希少品中の希少品「デマレシオン」が含まれていました。
■50セント貨とほぼ同じ大きさの、どっしりした10ドラクマ銀貨。 表に描かれているのは疾走する四頭立て二輪戦車と立ち姿の御者。 馬たちの頭上を天翔る勝利の女神ニケ。 足もとには、襲いかかるライオン。 裏には、月桂樹の冠をかぶった月の女神アルテミスと、周囲を泳ぎ回る4頭のイルカ。
このコインが造られたいきさつにもロマンが富んでいます。 ダンクは友人に説明しました。
■「これが造られたのは、ギリシャ軍がシシリー島を占領したときよ。 紀元前480年にギリシャ軍の総大将ゲロンは、ヒメラの戦いでカルタゴ人を打ちやぶった。 どうやらゲロンは根っからの残忍な男だったようで、敵を残らず打ち首かなにかにするつもりだったらしい。 ところが、妻のデマレテがカルタゴ人たちのことをとりなしたので、ゲロンは降伏条件を和らげた。 カルタゴ人たちはとても感謝して、デマレテに100タラントの値打ちのある金の冠を贈った。 それにちなんで大きな10ドラクマ貨が造られ、彼女の名前がつけられたというわけ。」
ダンクは、このコインに35万ドルの値段をつけました。
競売品は、厳重な監視のもと会場に移送されました。
ところが、会場で検査すると、何とこのコインだけが消えていました。 それから、ダンクの調査が始まります。
どうみても、依頼主の一族の中に犯人がいるらしい。 依頼主の富豪夫妻、長男夫妻、長女夫妻、次女とその恋人、秘書をしている甥とその情婦、みんな一癖も二癖もありそうな人ばかり。 ハンサムな刑事と保険調査員の二人と情報を交換しながら、彼女の調査が続きます。
『汝 盗むなかれ』
ローレンス・サンダース作 和泉晶子訳
"The Eighth Commandment"
by Lawrence Sanders
ストーリーもさることながら、情景の説明や人物像の描写が極めて豊かな語彙で綴られているのに驚きの作品です。 しかも、非常にこなれた日本語に翻訳されています。
2024年8月、都内某コイン店の店頭にこのコインが並んでいました。 極美品で、値段は600万円でした。
2022.8.9