「一踏豊元豊」 ~ 源氏名のついた鐚銭

「一踏豊元豊」 2.4g 23.5mm

 上のコインは、宋の元豊通宝の銭銘を借りて、日本で作られたいわゆる 鐚銭びたせん
 14世紀以来、できの悪い日本製の銭が経済を混乱させて、戦国の諸大名が盛んに「撰銭令」を出していました。
 しかし、16世紀後半になると、日本でも良質の銭を生産できるようになりました。 上のコインもその一つ。 ご覧のとおり、品質はしっかりしたものです。 16世紀後半から17世紀の初頭にかけて、おそらく加治木などの九州地方で生産されたものと思われます。 古銭界では「加治木系鐚銭」と総称しています。
 注目したいのはこの書体。 4文字とも、日本人の手による独特の書体。 特に「豊」の字は、最終画の下に「一」が書かれており、上部から踏みつけられているようです。 そのため、「一踏豊」との源氏名がついています。

 この他にもこの頃の日本の鐚銭には、古来より古銭家たちがいろいろな源氏名をつけています。 その一部を紹介します。
「山頭景徳」 3.0g 24.3mm
「景」字の上部が「山」になっていることから、「山頭景徳」と名付けられています。「徳」と「寶」字も個性のある字形です。
「壺治平」 3.0g 23.3mm
「平」の文字が壺の絵のように見えることから「壺治平」と名付けられています。 「治」と「寶」の文字の書体もなかなかのもので、「寶」の尓画は「ヨ」のように見えます。
上の「山頭景徳」と制作に共通点があることから、「山頭手治平」とも呼ばれています。
「円貝宝元豊」 2.2g 23.3mm
銭名は宋の元豊通宝ですが、完全に日本人の書体です。 まるでミミズが蠢いているようでもあります。
宝字の貝画が丸いので「円貝宝」と名付けられています。
「山頭豊元豊」 2.0g 23.5mm
「豊」の文字の上部が「山」字に見えることから、「山頭豊元豊」と名付けられていますが、私には火炎土器のように見えます。
「髭天聖」 3.5g 23.7mm
「天」の末端が大きく跳ね、カイゼル髭に似ていることから、「髭天聖」と名付けられています。

 2023.2.2