ローマ帝国遺跡出土のコイン

ビミナシウム遺跡 セルビア (画像Googleより)

 ローマ帝国は、領土を広げると属州を設け、その地を守る軍団の都市を建設しました。
 セルビアにあるビミナシウム(Viminacium)もその一つで、紀元1世紀にモエシア属州を守るために建設された都市です。 国境だったドナウ川の近くです。
 この遺跡とその周辺からは、コインの埋蔵物が発見されることが多く、その一部は一般に放出されています。 下の画像は今年(2022年)の1~3月に発掘されたコインの一部です。


 しかし2000年前の埋蔵物です。 錆や土砂がこびりつき、面文が定かでないものがほとんどです。
 それらの中から、比較的状態がいいものを何点か紹介します。
        
        

9.4g 25.8mm

4.4g 22.7mm

3.1g 18.5mm

 ①は1~2世紀に発行されたアス(As)銅貨。 表は皇帝像、裏は女神像です。
 ②は2~3世紀に小アジアの地方政府が発行した銅貨。 裏面の4頭だての馬車を従えた女神像がユニークです。
 ③は3世紀に発行されたアントニニアヌス(Antoninianus)貨。 皇帝の放射冠が目立ちます。

           
           

2.2g 17.8mm

1.8g 17.4mm

1.7g 16.0mm

1.1g 15.3mm

 ④~⑦は、4世紀に発行された銅貨で、センテニオナリス(Centenionalis)銅貨と呼ばれています。 小さなコインという意味です。
 この皇帝たちは、みんなよく似た顔立ちです。 コンスタンティヌス大帝の一族でしょうか。 ⑦は一族の最後の皇帝ユリアヌス2世(背教者、361~363)です。

 紀元1世紀(キリストのころ)、労働者の1日の賃金は1デナリウスといわれています。
 1デナリウスは銅貨に換算すると、およそ160グラム。 これを現代人の1万円とすると、銅1.6グラムが100円と等価です。
 上の1~2グラムの銅貨、100円玉と同じくらいの価値だった、ということになります。
 通常大量埋蔵金は、財産を守るため高額のコインを埋蔵することが多いです。 大量の銀貨が発見されることがよくあります。 しかし、ここで発見されたのは小額のコインばかりです。 異民族に攻撃されたときに緊急避難した財産、ということでしょうか。

最盛期のローマ帝国中央部 (吉川弘文館「世界史地図」より)

 ビミナシウムは一時人口4万人を超える大都市でしたが、西暦440年にフン族によって破壊されました。 上の埋蔵金はおそらくその直前のものと思われます。
 その後、ユスティニアヌス帝によって一時再建されましたが、それも6世紀にスラブ族によって破壊され、それ以降復旧することはありませんでした。
 現在ここは遺跡公園となり、考古博物館も建設されています。

 2022.4.28