硬貨の製造コスト
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巷間、1円玉の製造コストは1円を超える、との話があります。 中には、1円玉を溶かすと1円以上で売れる、との噂もあります。
このことについて、独立行政法人「造幣局」(以下、造幣局と略します)では、ホームページのQ&Aで、
Q.貨幣の製造原価を教えてください。
A. 貨幣の製造原価(コスト)については、国民の貨幣に対する信任を維持するためや、貨幣の偽造を助長するおそれがあると考えられることから、公表していません。
と書いています。 (ここで「貨幣」とは「硬貨」のことを指します)。
日本の硬貨の製造技術は素晴らしいものです。 500円玉という、おそらく世界最高額面の硬貨にも、贋造されるのは極めて稀です。
2021年の500円玉の流通高はおよそ51億枚でしたが、警察庁が確認した贋造貨幣は1145枚。 これに対して、EUの2ユーロ硬貨は、流通高69億枚に対して、贋造貨幣は18万枚もありました。 治安のよさだけでは説明できないくらい、日本の硬貨は贋造が難しい硬貨なのです。
このような高品質を維持しながらも、生産コストの上昇をいかにとどめているかを造幣局が説明した、「貨幣の製造に必要な経費」という資料があります。 書かれたのはおそらく令和4年の後半のようです。
硬貨製造に関わる総費用(予算ベース)の内訳が説明されています。 そのうちの2つの年をグラフにしたのが下の図です。
・原材料費 素材の銅、ニッケル、アルミニウムなどの購入費です。
・光熱水費 製造に必要な電気・ガス・水道代です。
ここまでが変動費、これ以降が固定費です。
・人件費 製造に関わる職員の人件費です。管理職やスタッフ部門の人件費も含まれていると思われます。
・諸経費 機械・設備の製造・保守に関わる費用、保管や運搬に関わる費用等でしょう。
・その他 研究開発費や、保安費用などが含まれるものと思われます。
意外に思えるのが原材料費の少なさです。 素材の費用は全体の2割以下です。
このように公にされている数字を元に、三菱UFJ信託銀行が令和2年に発表した「お金の原価を徹底解説!日本の紙幣や硬貨の原価は?世界の貨幣の原価は?」では、各額面ごとの製造原価を推定しています。 平成30年の数字のようです。
| 1枚あたり製造原価 | 内,原料価格
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1円玉 | 3.1円 | 0.29円
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5円玉 | 10.1円 | 2.28円
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10円玉 | 12.9円 | 3.50円
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50円玉 | 12.1円 | 3.75円
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100円玉 | 14.6円 | 4.50円
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500円玉 | 19.9円 | 5.19円
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1円玉だけでなく、5円玉や10円玉も製造原価が額面を超えています。 巷間の噂は本当だったようです。
さらに、この数年、金属価格が高騰しています。 右のグラフは、近年の原料価格の推移です(前掲造幣局の資料より作成)。 平成時代は落ち着いていたものの、ウクライナ以降急騰しています。 1円玉や5円玉の原料価格は額面に近づいています。
この際、1円玉、5円玉を廃止してはいかがでしょうか。 欧米では小額コインの廃止が進んでいます。 EU諸国では、5セント未満を廃止しています。 ニュージーランドでは10セント未満を廃止して久しいです。 自販機などでは、1円玉、5円玉は使用できませんが、何の不都合もありません。
2022.12.26
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