鐚 銭(びたせん)

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  鐚銭というと、割れたり、欠けたり、小さかったりの粗悪な貨幣のように思われますが、古銭界では、政府に鋳造能力がないため、民間で作成した貨幣のことをさします。
  時代的には、室町中期から寛永通宝が大量に発行され始める江戸初期までだと思います。
  九州、東北、関東、近畿など日本の各地で作られていますが、殆ど特定できていません。
  中国(唐、北宋、南宋、明が多い)やその他の国(朝鮮、安南、日本の皇朝銭など)の貨幣をそのまま鋳写したものや、多少手を加えたものなどがあります。
  ここでは、余り手を加えていない「鋳写し鐚(いうつしびた)」と、それに近いものを紹介します。
  鐚銭は、材質と共に、背(裏面)の状態も重要です。背の様子も鑑賞してください。

加治木鐚 洪武通宝 無背

鐚銭の産地で最も有名なのが、九州の加治木です。ここで鋳造された洪武通宝で、背に「加」「治」「木」がつけられているのがあります。鐚銭の中でも、鋳造場所が確かな珍しい例です。が、左の品は無背です。
銅質は白銅色で、まさに加治木鐚の典型といえます。
23.1mm 2.9g
覆輪鐚 元豊通宝

小ぶりな本銭(元々の宋銭)を覆輪して大きくしています。背の輪を大きく削り取っています。
削りとった痕跡が明瞭に残っています。
24.5mm 2.4g
東北鐚 萬年通宝

皇朝銭を鋳写したもので多いのが、和同開珎、神功開宝、その次がこの萬年通宝。多いといっても、本銭よりはぐっと少ないものです。
東北鐚特有の赤みを帯びています。
25.1mm 2.9g
嵌込鐚 大観手大中通宝

面文は明の大中通宝と同じですが、宋の大観通宝の「観」の字をなぜか加工して「中」にしたものです。はめ込んでいるようなので、嵌込鐚(はめ込みびた)といいます。
工事のためか、「中」のところだけ、背側に膨らんでいます。これも上と同じ赤鐚です。
23.5mm 2.6g
郭抜面星 元符通宝

鋳写し鐚銭は内郭が細くなっているのが多いのですが、それが極端になるとご覧のとおり、殆ど全くなくなってしまいます。郭抜(かくぬけ)鐚と呼びます。
また、宝の字の下に丸い星がありますが、故意につけたマークだと思われます。星があるのは、元豊通宝と元符通宝に限られるようです。
23.7mm 2.7g
筑前洪武 洪武通宝

筑前洪武と呼ばれている小形の洪武通宝があります。その中でもこれは最小様の部類です。20ミリありません。
筑前洪武と呼ばれていますが、筑前(福岡県)で鋳造されたわけではないようです。
19.0mm 1.5g
長門鐚 唐国通宝(篆書)

寛永通宝の一種に古寛永長門銭というのがありますが、背だけ見ると銅色といい、背郭の様子といいそっくりです。面よりも背を重要視するコレクタの気持ちを察してください。
厚肉で、4.5グラムと1文銭にしては重量級です。
本銭は、五代十国のひとつ「南唐(937-975)」の貨幣です。
24.0mm 4.5g


2001.7.8 2004.3.7update