中国周辺の文字

  コインに表れた中国周辺の文字を紹介します。
  コインといっても東洋の穴銭(丸い形に四角の穴があいたコイン)に限定します。



世界の四大文明の文字と、その後の消息の一端

                             ┌シャム文字────────────
                             ├ビルマ文字────────────
                    ┌ブラーフミー文字┼①トハラ文字
                    │        └チベット文字─┬─────────
                    │                └⑥パスパ文字
              ┌アラム文字┼ヘブライ文字────────────────────
              │     ├カロシュティ文字
◆エジプト神聖文字─セム文字┤     ├⑧アラビア文字─┬─────────────────
              │     │        └⑩近代ウィグル文字────────
              │     └②ソグド文字──┬③古代ウイグル文字
              │              └モンゴル文字─┬─────────
              │                      └⑦⑩満州文字
              │              ┌キリル文字───ロシア文字────
              └フェニキア文字─ギリシャ文字┼─────────────────
                             └エトルリア文字─ローマ字─────

◆シュメル楔形文字──バビロニア、アッシリア、ヒッタイトなどの楔形文字

◆インダス印章文字

              ┌⑨かな─────────────────────────────
◆黄河甲骨文字──漢 字──┼──────────────┬─────────────────
              ├④契丹文字─女直文字    └ハングル文字───────────
              └⑤西夏文字

参考文献:世界の文字研究会編、「世界の文字の図典」、吉川弘文館



①トハラ文字(クチャ語、トハラ語B)
亀茲五銖 5~7世紀。
西域の亀茲で作成されたものらしいです。
面文は「五銖」で、背文に書かれている記号の様なものがトハラ文字Bといわれています。 上部の○が1/10銖を、下部の字が50を意味するそうです。
17.9mm 1.3g

②ソグド文字
トルギス(突騎施) スールク(蘇禄、忠順可汗) 717-738
ソグド人は、中央アジアのソグディアナ地方の住人で、8世紀ころ内陸アジアの経済上の支配権を握っていました。
ソグド文字は、ヨーロッパのアルファベットを元に作成された文字です。字は右から左へ書きます。
このコインには、当時の王様の名が書かれているそうです。この王様は、唐風の貨幣を作りながら、唐と戦って大敗し、国は滅んだそうです。
円形で四角の穴のあいた貨幣では、世界の最西端でしょう。
24.8mm 4.7g

③ウィグル文字
ウィグル(回鶻) キュルク・ビルゲ・カガン(牟羽可汗) 759-779
ウィグル族は、8~9世紀に蒙古高原にいて、唐と争っていました。
このウィグル文字は、ソグド文字を元に作成したものです。最初は右から左へ書いていましたが、その後上から下へ書くようになりました。
ウィグル族はその後、仇敵キルギスに追われ、西域に逃れます。
20.7mm 3.0g

④契丹文字
契丹 天朝万順 10~11世紀。
キタイ人は、契丹(後に遼)国を建国し、契丹文字を制定しました。
契丹文字がコインに使われることはありませんでした。 左の品は通貨ではなく、お祭りなどに使われたものです。 文字は、「天」の字以外は解読されていません。 「天禄通宝」、「天直万銭」と読む説もあります。
25.1mm 7.4g

⑤西夏文字
西夏 天慶宝銭 1194。
西夏文字は西夏の建国者李元昊が、1036年に制定したものです。普通西夏といいますが、自分たちは「大夏」と称していたそうです。
西夏の人たちはこの文字を「番字」と呼んでいたそうです。そのため、このコインは「番(蕃)字銭」と呼ばれることがあります。
西夏はその後、1227年にチンギス汗により滅ぼされ、この端正な文字を使う人もいなくなりました。
西夏文字は、日本の西田博士によって全貌が解読されました。
23.9mm 4.8g

⑥パスパ文字
元 大元通宝 当十 1310。
パスパ文字は、フビライ汗がチベットの高僧パスパに命じて作成させたそうです。
チベット文字が元になっています。
蒙古では、これとは別にウィグル文字を元にした蒙古文字も使用されました。
43.7mm 17.6g

⑦満州文字
後金 天命皇宝 1616。
後金(後の清)のヌルハチが、1601年に蒙古文字を元に作成した文字です
満州文字は中国の漢字が起源ではなく、古代エジプト文明で発生した象形文字が、ソグド文字を経由して、はるか極東の満州まで伝わったものです。
向かって左右上下に読み、「阿巴開(あぱら)」、「福霊阿(ふうりんあ)」、「漢(はん)」、「吉哈(ちいは)」という意味で、「天・命・皇・宝」を意味するそうです。・・・安達岸生著「穴の細道」
28.6mm 6.9g

⑧アラビア文字
清朝期 陝西甘粛の回教徒 1862-1873
清朝同治帝の時代、陝西甘粛の回教徒が反乱を起こし、一時は独立国の状態を呈しました。このときに発行された貨幣です。
上下左右は間違っているかもしれません。
25.7mm 3.5g

⑨カナ文字
日本 水戸藩 寛永通宝 1866。
日本の幕末に水戸藩が鋳造した寛永通宝で、鉄製の4文銭です。
背の「ト」は、ミトのトと言われています。
他に、安芸広島藩の「ア」、伊勢津藩の「イ」、会津藩の「ノ」などがあります。
26.1mm 3.8g

⑩満州文字と近代ウィグル文字
清 光緒通宝 アクス局 1874-1908
清の乾隆帝が新疆を領土としたとき(1759ころ)より、この地方でも清の貨幣が鋳造されました。
独特の赤みのある銅質で、「紅銭(べにせん)」と呼ばれています。
この貨幣は、背左側に「満州文字」、中央上下に「漢字」、右側に「ウィグル文字」の3種類の文字が配されています。
25.4mm 3.8g


 この他、ありそうでないのが、ハングル文字が記されている穴銭です。



  契丹文字
  契丹文字は、漢字のような表意文字ではなく、アルファベットのような表音文字です。
  アルファベットのようないくつかの字母を組み合わせて別の文字を作っています(ハングル文字の作り方と似ています)。
  例えば、「国」のことを契丹の人たちは「Orun」と発音するため、O,R,Uの3つの字を組み合わせて「国」を表わす字を作りました。 O,R,Uに相当する字は、他にもいくつかあるのですが、その中からこの3つを選んで組み合わせたのです。
  漢字に似ているのは偶然だと製作者たちは説明したそうですが、どう見ても「国」という字にそっくりです。 「皇帝」を表わす字も「主」にそっくりです。




      『聖なる突騎施可汗の貨幣』
      西夏の番字銭

2001.7.8 2001.11.10改訂 2002.9.8改訂