聖書の時代のコイン

 ● ヘロデ大王と東方三博士
 ヘロデ大王のコイン
 表 : 不明
 裏 : 豊穣角
 ヘロデ大王(在位BC37-4)は、キリストが生誕したときのユダヤの王様です。
 14-15mm 1.7g
 アゼス2世のコイン
 表 : 鞭を持つ王の騎馬像
 裏 : アテナ女神像(ゼウス?)
 サカ王朝のアゼス2世(在位BC35-AD10)の発行したものです。サカ王朝は、現在のパキスタンにあったスキタイ人の国です。
 アゼス2世は、キリストを探していた東方三博士のうちの一人との伝説があります。
 7.4g 24.3mm

 マタイによる福音書 第2章
 イエスがヘロデ王の代に、ユダヤのベツレヘムでお生まれになったとき、見よ、東からきた博士たちがエルサレムに着いて言った。 「ユダヤ人の王としてお生まれになったかたは、どこにおられますか。 わたしたちは東の方でその星を見たので、そのかたを拝みにきました」。 ヘロデ王はこのことを聞いて不安を感じた。


 ● 「レ プ タ」
 ハスモン朝のレプトン銅貨
 表 : 星
 裏 : 錨
 ユダヤ王国(ハスモン朝)の王ヤンナイオス(在位BC103-76)が発行したものです。
 10-12mm 0.6g

 マルコによる福音書 第12章
 イエスは、さいせん箱にむかってすわり、群集がその箱に金を投げ入れる様子を見ておられた。 多くの金持ちは、たくさんの金を投げ入れていた。 ところが、ひとりの貧しいやもめがきて、レプタを2つ入れた。 それは1コドラントに当る。 そこで、イエスは弟子たちを呼び寄せて言われた、「よく聞きなさい。あの貧しいやもめは、さいせん箱に投げ入れている人たちの中で、だれよりもたくさん入れたのだ。 みんなの者はありあまる中から投げ入れたが、あの婦人はその乏しい中からあらゆる持ち物、その生活費全部を入れたからである」。
 「レプタ」は、当時のこの地方の最も小さなレプトン銅貨のことを指しています。 また、「コドラント」は、ローマの1/4アス銅貨のことで、「ローマ人の買い物」の中で「クワドランス黄銅貨」として紹介しています。

 ● 「デ ナ リ」
 アウグスツスのデナリウス銀貨
 表 : ローマ皇帝アウグスツス(オクタビアヌス)
 裏 : ガイウス・カエサルとルキウス・カエサル。その間に楯と槍。
 ローマ初代皇帝アウグスツス(在位BC27-AD14)が発行したものです。
 18.0mm 3.7g

 新約聖書の中には、「デナリ」というコインがたびたび登場します。「デナリ」は、ローマが発行したデナリウス銀貨のことをさしています。表面には通常そのときのローマ皇帝の肖像がデザインされていました。

 マタイによる福音書 第20章
 天国は、ある家の主人が、自分のぶどう園に労働者を雇うために、夜が明けると同時に、出かけて行くようなものである。 彼は労働者たちと、1日1デナリの約束をして、彼らをぶどう園に送った。
 このことから、デナリ1枚が労働者1日の賃金の目安だったと考えられています。 現代人の感覚では、デナリ1枚は1万円程度でしょうか。

 マルコによる福音書 第12章
 「ところで、カイザルに税金を納めてよいでしょうか、いけないでしょうか。 納めてはならないのでしょうか」。 イエスは彼らの偽善を見抜いて言われた。 「なぜわたしをためそうとするのか。デナリを持ってきて見せなさい」。 彼らはそれを持ってきた。 そこでイエスは言われた、「これは、だれの肖像、だれの記号か」。 彼らは「カイザルのです」と答えた。 するとイエスは言われた、「カイザルのものはカイザルに、神のものは神に返しなさい」。
 「カイザル」は、「カエサル」、ローマ皇帝のことです。

 ルカによる福音書 第10章
 ところが、あるサマリヤ人(びと)が旅をしてこの人のところを通りかかり、彼を見て気の毒に思い、近寄ってきてその傷にオリブ油とぶどう酒とを注いでほうたいをしてやり、自分の家畜に乗せ、宿屋に連れて行って介抱した。 翌日、デナリ2つを取り出して宿屋の主人に手渡し、「この人を見てやってください。費用がよけいにかかったら、帰りがけに、わたしが支払います」と言った。
 " Be a good Samaritan. " の話として有名です。

 ヨハネの黙示録 第6章
 そこで見ていると、見よ、黒い馬が出てきた。 そして、それに乗っている者は、はかりを手に持っていた。 すると、わたしは四つに生き物の間から出て来ると思われる声が、こういうのを聞いた。 「小麦1ますは1デナリ。 大麦3ますも1デナリ。 オリブ油とぶどう酒とを、そこなうな。」


 ● ユダが受け取った30枚の銀貨
 フェニキアのシェケル銀貨(テトラドラクマ銀貨)
 表 : フェニキアの神メルクォート。
 裏 : 鷲。
 かつてこの地方を治めていたプトレマイオス王朝時代のコインです。
 24.0mm 14.1g

 マタイによる福音書 第27章
 そのとき、イエスを裏切ったユダは、イエスが罪に定められたのを見て後悔し、銀貨30枚を祭祀長、長老たちに返して、言った。「わたしは罪のない人の血を売るようなことをして、罪を犯しました」。
 祭祀長たちは、その銀貨を拾いあげて言った、「これは血の代価だから、宮の金庫に入れるのはよくない」。そこで彼らは協議の上、外国人の墓地にするために、その金で陶器師の畑を買った。
 ユダが受け取ったのは上のシェケル銀貨とされています。 銀貨30枚は、当時の労働者の3カ月分の労賃です。


 ( 聖書の引用は、日本聖書協会発行の1954年改訳『新約聖書』を使用しました。)


 このころの貨幣の単位
 このころ、ユダヤでは次の3種類の通貨単位が混在して使用されていました。
  【メソポタミアの単位】 1シェケル=20ゲラ=8プルタ=11.4g。
  【ローマの単位】 1デナリウス(複デナリ)=16アサリオン(またはアス)=銀貨3.85g。
  【ギリシャの単位】 1ドラクマ(複ドラクメ)=128レプトン(複レプタ)=銀貨3.40g
 なお、イスラエルの1949~1959年の小額貨幣単位は「プルタ」、1985年以降の高額貨幣単位は「シェケル」です。
 また、ギリシャの1831~2002年の貨幣単位は、1ドラクマ=100レプトン(複レプタ)でした。 現在でも、1ユーロセントのことを、ギリシャでは通称「レプタ」と呼んでいるそうです。


 謝辞 :  
   このページ作成では、山形市の酒井さんから多くの助言を頂きました。 ありがとうございました。

参考文献:
  酒井俊昭、「古代ユダヤの歴史と貨幣」、『収集』 2003.6~9
  D.R.Sear, "Greek Coins and Their Values Volume II", Seaby, 1979
  D.R.Sear, "Roman Coins and Their Values", Spink,
  W.G.Sayles, "Ancient Coin Collecting VI", Krause, 1999
2002.8.19 2003.12.7 Update 2004.2.22 Update 2004.5.4 Update  2009.3.15 Update


      旧約聖書の時代
      新約聖書に登場する「銀貨」