江戸の家計簿
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1両小判はどれくらいの価値があったのだしょうか、庶民の暮らしはどうだったのでしょうか?
江戸時代の後期の大工さん、農家、下級武士の家計簿を紹介しましょう。
<<江戸時代の貨幣単位について>>
江戸時代の貨幣単位は、金・銀・銭の三種類の単位がありました。
金 : 1両=4分(ぶ)=16朱
(主に関東で使用されました)
銀 : 1匁=10分(ふん)
(主に関西で使用されました)
銭 : 1貫=1000文
(小額の取引に使用されました)
これらの間の交換比率は、固定ではなく、右のグラフのように変動していましたが、江戸中期~後期ではだいたい
金1両 = 銀60匁 = 銭6~7貫
前後でした。また、米は1石=金1両くらいで、当時の人は、1日米5合、1年で1.8石食べたそうです。
大工さんの場合
文政年間(1820ころ)の大工さんの場合です。 若い大工さん夫婦を想像してください。 住んでいる長屋は4畳半2間です。
●家族構成:大工さん夫婦、子供一人。
●収入:1日の賃金は銀5匁4分(内、1匁2分は飯代)、年間294日働くとして年間で銀1,588匁。
●支出
○店賃 銀120匁 - たなちん(部屋代)です
○米代 銀354匁
○塩・味噌・醤油・油・薪炭 銀700匁
○道具・家具 銀120匁
○衣服 銀120匁
○つきあい費 銀100匁
●残りは、銀74匁です。
【出典】小野武雄、「江戸物価事典」、展望社、1980
【原典】栗原柳庵、「文政年間漫録」
農家の場合
こんどは、江戸後期の農家の場合です。練馬あたりの農家を想像してください。
●家族構成:夫婦、子供一人。田1町と畑5反を耕作。中流の農家です。
●収入
米20石、麦6石、大根2万5千本。
米と麦は、年貢・地代・家族の消費で使った残りを1石1両で売却。
大根は銭135貫(1本あたり5.4文)で売却。
●支出
○年貢、地代
年貢 米5石、畑分年貢 銭3貫。
地主への地代 米5石。
○田畑諸掛り - 生産のための諸経費です。
種穀 米1石、肥料 銭50貫文、
運賃 銭40貫文、舟賃 金2.5両、
日雇いの賃金 米5升、麦1.8石、金1.5両。
○主食費 - 麦が中心の主食でした。野菜類は自給していたのでしょう。
米1.9石、麦3.6石。
○衣食住費
塩・茶・油・紙 金2両、農具・家具 金2両、薪・炭 金1両、衣料 金1.5両。
○交際費
正月の餅など 米5斗、年末年始の費用 金2両、親戚とのつきあい 金1両。
●残りは、金1両弱しかありません。出典の著者は、「余すところ金二、三分に足らず、ゆえに風寒暑湿に冒し、一、二月も(仕事を)怠るときは収穫に損ありて、医薬の価に充てるに足らず」と書いています。
収入は一見金換算で47両ありますが、2/3は税金と諸経費なのです。可処分所得は、15両くらいしかありません。
【出典】児玉幸多、「近世農民生活史」、吉川弘文館、1957
【原典】大久保仁斎、「富国強兵問答」、安政2(1855)
【 クイズ 】
銭50貫文出して肥料を買っています。 小判にすると7~8両です。 この「肥料」とは、具体的に何だったのでしょうか?
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江戸の町並み ・・・ 八丁堀付近
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武士の場合
最後に、武士はどうだったでしょうか。 江戸後期の下級武士の場合です。 町奉行所の同心を想像してください。
●家族構成:夫婦、子供一人。 下男と下女を一人ずつ雇っている。
●収入
禄高は70俵5人扶持。
70俵(28石)の米は札差を通じて売却します。21両になります。
5人扶持(1人扶持は1日5合の米)は、家族と下男下女で消費します。 この分も収入に加算すると、年収28両になります。
●支出
○毎月の費用(日々の生活費) - 9両
1ケ月あたり5000文の支出です。その内訳は次のとおりです
薪 800文、炭 450文、蝋燭 100文
野菜 800文、味噌 300文、醤油 300文、油 250文
神仏入用 200文、客入用 400文
当人小遣い 500文、勤めのときの入用 500文
女房小遣い 400文
○主食 - 5人扶持の米を家族と下男下女で消費します
○下男下女給金 - 4両
下男に3両、下女に1両。
○着服入用 - 2両1分
○交際費 - 4両2朱
盆 1両、暮 2両、五節句 2分2朱、吉凶金(お祝いとお見舞い) 2分。
○その他 1両2分2朱
札差の手数料 1分、当人手元金 3分、臨時費用 2分2朱。
【出典】「三田村鳶魚全集・第六巻」、中央公論社、1975(源著は1930年頃)
【原典】橋本敬簡、「経済随筆」、文政8(1825)
さて、これらの家計簿から1両は今のどれくらいと考えられますか。
小判は金でできているから高価だろうと言う人がいますが、小判の中で金の最も多い慶長・享保小判を鋳潰すと、昨今の金高騰でも10.3万円にしかなりません(2021/4現在、6800円/gで計算)。 上の家計簿の時代(19世紀前半)の元文・文政・天保小判では、4~6万円です。
物の豊かさ・価値観の違い・税金・福祉・年金・副収入など、いろいろ考慮すべきことはありますが、
・江戸後期の庶民の年収は20~30両
・現在のサラリーマンの世帯あたりの年収は600万円前後
とすると、感覚的には ”金1両=現在の20万円くらい、1文=30円くらい”、と考えますがいかがでしょうか。
江戸の三貨 一文と一両の価値
2001.7.8 この後も適時改定