デノミネーション

「デノミ(ネーション)」という言葉を、『新明解国語辞典』では、
[極端なインフレのため大きな数値を扱わねばならぬ不便を避ける目的で]お金の単位名を切り下げること。たとえば、100円を1円と呼ぶようにすること。
と説明し、『広辞苑』では、
新しい貨幣単位をつくって旧貨幣単位名と切り替えること。例えば100円を新1円とするような措置。
と説明しています。
ところで、このデノミネーションと言う言葉は、上の二つの国語辞典でも補足説明していますが、英語由来ではありません。英語の denomination は「単位名」という意味で、「単位名の変更」は redenomination です。
日本語のデノミネーションの由来は、ロシア語の деноминация(denominatshiya) を英語風に置き換えた造語です。

新明解では、切り下げることに限定していますが、広く解釈すると一般の貨幣単位の変更の意味と捉えたいです。
明治維新のときに両・匁・文を円・銭に変更した、またEU諸国がマルクやフランをユーロに変更したのも「デノミテーション」でしょう。

おことわり: 以下の説明で
  ・「アメリカドル」、「オーストラリアドル」などはすべて単に「ドル」と記載しました。
  ・新しい貨幣単位をそれまでの1000分の1にすることを、「3桁のデノミ」と略称しました。
その他も同様です。

●ドイツとハンガリーの場合
デノミで有名なのは、第一次大戦後のドイツと、第二次大戦後のハンガリーの場合です。 どちらも敗戦後のスーパーインフレで金額の数字が巨大化したものです。
第一次大戦後のドイツでは、1923年11月、それまでの1兆マルクを新しい1レンテンマルクとしました。 12桁のデノミです。
第二次大戦後のハンガリーでは、1946年8月、それまでの1000,000,000,000,000,000,000,000,000ペンゲーを1フォリントとしました。 27桁のデノミです。
どちらの場合も、その後の処置が見事だったので、インフレは止まりました。
ハンガリーの100,000,000,000,000,000,000ペンゲー紙幣
(デノミ後は0.000,000,1フォリント)
これらの詳細については、 「ドイツのハイパーインフレ」と、 「史上最高額面の紙幣」をご参照ください。

●ユーゴ、ブラジル、アルゼンチン、ジンバブエ、ベネズエラの場合
ユーゴスラビアの貨幣単位はディナールでしたが、
  ・1966年 2桁のデノミを行い、ハード・ディナール
  ・1990年 4桁のデノミを行い、兌換ディナール
  ・1992年 1桁のデノミを行い、改正ディナール
  ・1993年 2桁のデノミを行い、十月ディナール
  ・1994年 9桁のデノミを行い、ディナール
その後もインフレが続き、2000年にはドイツマルクを法定通貨と定めました。

南米のブラジルの貨幣単位はレイスでしたが、
  ・1967年 3桁のデノミを行い、新クロゼイロ
  ・1986年 3桁のデノミを行い、クルザード
  ・1989年 3桁のデノミを行い、新クルザード
  ・1993年 3桁のデノミを行い、クルゼイロ・レアル
  ・1994年 2750分の1のデノミを行い、レアル
と何度も貨幣単位名が変りました。

アルゼンチンも同様です。 この国の貨幣単位はペソでしたが、
  ・1970年 2桁のデノミを行い、ペソレイ
  ・1983年 4桁のデノミを行い、ペソ・アルヘンティーノ
  ・1985年 3桁のデノミを行い、アウストラル
  ・1992年 4桁のデノミを行い、ペソ

ジンバブエが天文学的なデノミを行ったことは周知のことです。 この国の貨幣単位はドルで、かつては米ドルより高価でしたが、乱暴な政治のせいで、
  ・2006年8月 3桁のデノミを行い、第2のドルとなる
  ・2008年8月 10桁のデノミを行い、第3のドルとなる
  ・2009年2月 12桁のデノミを行い、第4のドルとなる(わずか半年後です)
遂に、2009年4月、自国での貨幣発行を停止しました。
詳細については、 「ジンバブエの100兆ドル札」をご参照ください。

ベネズエラは、世界最大の産油国として経済的にも恵まれていましたが、2000年ころより政治の失敗と腐敗、原油価格の暴落などにより、政治と経済が大混乱しています。
今でもハイパーインフレが続いているようで、年間200万%のインフレも珍しくないそうです。 (100円のケーキが、1年後には200万円になるのです!)
この国の貨幣単位はボリバルでしたが、
  ・2008年1月 3桁のデノミを行い、ボリバル・フェルナ
  ・2018年8月 5桁のデノミを行い、ボリバル・ソベラノ
  ・2021年10月 6桁のデノミを行い、ボリバル・デジタル
とごく最近までデノミが続いています。 2018年には、政府は「ペトロ」と呼ばれる仮想通貨(暗号通貨)を発行していますが、効果のほどは不明です。

どの例も、何度もデノミを繰り返しています。 貧困な政治のせいでしょう。 日本の政治は、(支持率は決して高くありませんが)健全です。

●ソ連の場合
通常デノミが行われても、すべての通貨が一律に同じレートで新しい通貨と交換されます。 しかし1947年12月にソ連で行われたデノミは、非常に複雑でした。 現金、預金、債券などによって交換レートが異なったのです。
次の値は、それまでの100ルーブルが、いくらの新ルーブルになったかの一覧です。
  ・国家の記帳残高      100
  ・貯金(3千ルーブル以下) 100
  ・同 (3千~1万ルーブル) 66⅔
  ・同 (1万ルーブル以上)  50
  ・コルホーズ預金       80
  ・1939年以降の国債    33⅓
  ・1938年以前の国債    20
  ・現金            10
国家に対しては厚く、人民に対しては薄い配慮のようです。

●イスラエルの場合
デノミで貨幣名称を変更するとき、「新」をあたまにつけることがあります。 イギリスの新ペニー(New Penny)がいい例です。
イスラエルの場合、少し変っています。 この国の貨幣単位は
   【ポンド(リラ)】─100─【アゴラ】
でしたが、1980年10分の1にデノミされ、
   【シェケル】─100─【新アゴラ】
となりました。 その後1985年にさらに1000分の1にデノミされ、
   【新シェケル】─100─【アゴラ】
となりました。 「新」の位置が奇妙なことに驚きです。

●イギリスとイギリス連邦の場合
8世紀に貨幣経済が復活したときから、イギリスの貨幣単位は、
  【ポンド】─20─【シリング】─12─【ペニー(複数形はペンス)】
でした。
19世紀以降、他の国々が貨幣制度を改めるときに計算に便利な10進法を採用したのに対し、経済が堅調だったイギリスはこの制度が戦後も続きました。
しかし、やっと1971年になって、ポンドはそのままで
  【ポンド】─100─【新ペニー(1982年からペニー)】
と下位単位をデノミネーションしました。

PENNY 1861~1970

NEW PENNY 1971~1981

PENNY 1982~
(ペニーから新ペニーになったとき、名目上の価値は2倍以上になったのに、コインの大きさは半分以下です。)

同じ問題は、ポンド・シリング・ペニーの貨幣制度だったイギリス連邦の諸国にもありましたが、イギリス本国より先立ってデノミネーションが行われました。
  南アフリカ    1961年 【ランド】─100─【セント】   2ランド=1旧ポンド
  オーストラリア  1966年 【ドル】─100─【セント】    2ドル=1旧ポンド
  ニュージーランド 1967年 【ドル】─100─【セント】    2ドル=1旧ポンド
  ザンビア     1968年 【クワチャ】─100─【ングェー】 2クワチャ=1旧ポンド
いずれも、基準単位をそれまでのポンドの半分にするという、「逆デノミ」です。

●北朝鮮の場合
2009年11月30日、北朝鮮政府は突然デノミを発表しました。
  ・現在の100ウォンを新1ウォンとする。 1週間以内に新しい紙幣と交換しなさい。
  ・交換できるのは、1世帯あたり10万ウォンまでです。
政府は、インフレ抑制だけでなく、たんす預金やアングラマネーを排除して経済統制を強めようとしたのです。
人々はびっくりしました。 10万ウォンといえば、当時約3000円、地方都市中間層の1カ月分の生活費相当です。 それ以上の現金は紙くずとなるのです。
お金がダメなら物に交換しておこうとしても、ただでさえ物不足のうえ、売り惜しみが頻発し物価が上がります。 2カ月後には、物価が25倍にもなりました。
貧困化が加速され、暴動も起きました。 犠牲者が多数出て、経済と社会が大混乱。
デノミを推進した財政部の部長と副部長は、責任をとらされて処刑されました。

●その他
最近のデノミの例を幾つかをみてみます。
  メキシコ   1993年 3桁のデノミを行う。
  ポーランド  1995年 4桁のデノミを行う。
  ウクライナ  1996年 5桁のデノミを行う。
  ロシア    1998年 3桁のデノミを行う。
  ベラルーシ  2001年 3桁のデノミを行う。 さらに2016年、4桁のデノミを行う。
  トルコ    2005年 6桁のデノミを行う。
  ルーマニア  2005年 4桁のデノミを行う。
  イラン    2019年 4桁のデノミを行う。
トルコの10万リラコイン
(デノミ後は0.1リラ)



トイロ(Teuro)
ドイツがユーロに移行するとき、便乗値上げがあるのではないかと不安が広がりました。
「Teuer Euro(トイア・オイロ)=高額なユーロ」を略した「Teuro(トイロ)」という言葉が生まれました。
ユーロ移行のトイロは杞憂に終わりました。

 2020.9.7   2021.10.22改訂