コインの発行年

新しい元号「令和元年」を刻んだコインが発行されました。
コインに刻まれた発行年についてお話します。

(1)歴 史 
現在では、コインに発行年を刻むのは当然のようになっていますが、歴史上はどうなっていたでしょうか。

●パルチアのコイン
アレクサンドロスの武将が建国した国々では、コインに発行年を刻むことがありました。
バビロニアやペルシャを治めていたセレウコス朝では、建国の年(西暦紀元前312年)を紀元とするセレウコス暦での年を刻みました。
セレウコス朝の後にイラン高原で栄えたのはパルチアです。 右のコインは、パルチアのテトラドラクマ銀貨です。 座している人の膝の前に「ΑΙΤ」と刻まれています。 これはギリシャ数字の311で、セレウコス暦311年(西暦紀元前2/1年)を意味しています。

なお、ギリシャ数字は次のとおりです。
  Α(1)  Β(2)  Γ(3)  Δ(4)  Ε,Є(5)  F,S(6)  Ζ(7)  Η(8)  Θ(9)
  Ι(10)  Κ(20)  Λ(30)  Μ(40)  Ν(50)  Ξ(60)  Ο(70)  Π(80)  Ϙ (90)
  Ρ(100)  Σ,C(200)  Τ(300)  Υ(400)  Φ(500)  Χ(600)  Ψ(700)  Ω(800)  Ϡ (900)

この他、1~3世紀の西アジアのローマ帝国属州では、属州固有のコインが発行されましたが、セレウコス暦の他のいくかの暦で発行年が刻まれています。
  ポンペイウス暦 ー ローマの将軍ポンペイウスが西アジアを平定した紀元前64年を紀元とする。
  カエサル暦 ー カエサルがルビコン川を渡った紀元前49年を紀元とする。
  アクチウム暦 ー アクチウムの海戦のあった紀元前31年を紀元とする。
例えば、3世紀のキリキア属州(南トルコ)で、O/C(カエサル暦270年=西暦221年)と刻まれたコインが発行されています。

●サラセン帝国のコイン
サラセン帝国は、7世紀のウマイヤ朝の時代に独自の貨幣制度を整えました。 ディーナール金貨とディルハム銀貨を基本とするものです。
右のディルハム銀貨には、外周右側に سنت اربع تسعين معت と刻まれています。
これは、右から year 4 90 100 を意味します。 ヒジュラ暦の194年です。 西暦の809~810年になります。
詳しくは、「イスラームのディルハム銀貨」 をご覧下さい。
●南宋のコイン
東洋で最初に発行年を刻んだのは、12世紀の南宋でしょう。
右のコインは、南宋が発行した「淳熈元宝」です。
背面の文字は、少し見づらいですが「柒」という字です。これは「七」と発音の同じ「漆」の略字で、「淳熈七年(西暦1180年)」を意味しています。
この翌年の背面の文字は「捌(八)」で、そのあとは、「九」、「十」・・・と、普通の文字になっています。
この形式は、咸淳八年(西暦1272年)まで続きました。


●神聖ローマ帝国チロルのコイン
中世のヨーロッパで最初に発行年を刻んだのは、神聖ローマ帝国のチロル(現オーストリア)でした。
チロルのジギスモンド大公が発行した2分の1グルデン銀貨で、自分の肖像とともに、発行年の1484を刻みました。
16~17世紀になると、他のヨーロッパ諸国でも発行年を刻むようになりました。
右のコインは、そのチロルで1616年に発行されたターラー銀貨。 大公の前後に1616が刻まれています。

(2)令和元年のコイン
現代では、どの国もコインには発行年を刻んでいます。 もちろんその多くは西暦ですが、日本のように独自の紀年法を採用している国もあります。
令和元年に発行されるコインには、どのように刻まれるか調べてみました。

国、地域暦、紀年法令和元年の銘説明
日本日本の年号(元号)

説明不要

世界中の多くの国西暦
(グレゴリオ暦)
2019

525年に西暦の紀年法が定まり(このときはユリウス暦)、
その後1582年にグレゴリオ暦として改訂された。
表現される数字は、いわゆる算用数字が殆どであるが、独自の文字を使用してる国もある。
 ၂၀၁၉ ミャンマー文字
 ২০১৯ ベンガル文字(バングラデシュで使用)

イスラムの国々イスラム暦
(ヒジュラ暦)
١٤٤١
(1441年)

ムハンマドが聖遷(ヒジュラ)した西暦622年を紀元とする。
完全な太陰暦なので、西暦とは33~34年に1年ずれる。
令和元年は、8月18日までは1440年、それ以降は1441年。

サウジアラビア、
モルディブ、
カタールなど
西暦とイスラム暦
2019・1441
2019・ ١٤٤١
١٤٤١・٢٠١٩

一部のイスラム国家では、イスラム暦と西暦を併記している。

イラン
アフガニスタン
イラン暦
(ヒジュラ太陽暦)
١٣٩٨
(1398年)

ヒジュラ暦を太陽暦化したもの。
西暦とは621年余りずれている。春分の日が元旦。

中華民国中華民国暦中華民國一〇八年

中華民国が成立した1912年を紀元とする。
右書きもある。

北朝鮮主体暦주체108(2019)

金日成が生誕した1912年を紀元とする。
西暦も併記している場合と、西暦だけのこともある。

タイタイ暦๒๕๖๒
(2562年)

紀元前543年の仏滅を紀元とする。

ネパールネパール暦
(ビグラム暦)
२०७६
(2076年)

紀元前58年を紀元とする。紀元の由来は不明。

イスラエルユダヤ暦התשעײט
(5779年)

ユダヤ教の神が世界を創世した紀元前3761年を紀元とする。
ヘブライ数字は、右から 5,400,300,70,9 で、先頭の5は5000を意味し、残りは合計で 779。

エチオピアエチオピア暦፳ ፻ ፲ ፪
(2012年)

キリスト生誕の年の解釈の違いにより、西暦と7~8年の差がある。
令和元年は、9月10日までは2011年、それ以降は2012年。
エチオピア数字は、左から 20,100,10,2 で、 20×100+10+2=2012。


もっとも発行年の銘といっても、必ずしも製造・発行した年とは限りません。 国によっては、最初にデザインされた年の銘が、次にデザインが変更されるまでそのままずっと続きます。 1993年銘のコインを現在でも発行し続けている国もあります。
令和元年に発行されても、上の文字が刻まれるとは限らないのです。

(3)コインの発行年の調べかた
コインに記されている文字から、発行年を調べる方法を紹介します。 ただし、原則として戦後のコインに限ります。

まず、コインの中から、発行年と思われる文字を特定し、それぞれの暦での年をしらべます。
暦、文字、数値の関係は、次のとおりです。
暦の種類数字名使用している国0123456789西暦への変換方法
西暦ビルマ数字ミャンマー၀၁၂၃၄၅၆၇၈၉
西暦ベンガル数字バングラデシュ০১২৩৪৫৬৭৮৯
イスラム暦アラビア数字イスラムの諸国٠١٢٣٤٥٦٧٨٩西暦=イスラム暦×32÷33+622
イラン暦アラビア数字イラン
アフガニスタン
同上西暦=イラン暦+621
ペルシャ建国暦アラビア数字イラン
(1976~78)
同上西暦=ペルシャ建国暦-559
中華民国暦漢数字中華民国〇一二三四五六七八九西暦=中華民国暦+1911
檀紀算用数字韓国
(1948~61)
0123456789西暦=檀紀-2333
主体暦算用数字北朝鮮0123456789西暦=主体暦+1911
タイ暦タイ数字タイ๐๑๒๓๔๕๖๗๘๙西暦=タイ暦ー543
ネパール暦デーバナーガリー数字ネパール०१२३४५६७८९西暦=ネパール暦-57
ファッショ暦ローマ数字イタリア
(1936~43)
I V X L C D M ・・・西暦=ファッショ暦+1922
教皇暦ローマ数字ヴァチカン市国
(~2001)
同上⇒あとで説明
ユダヤ暦ヘブライ数字イスラエル⇒あとで説明西暦=ユダヤ暦-3760
エチオピア暦アムハラ数字エチオピア⇒あとで説明西暦=エチオピア暦+7
(ただし、元旦は多少ずれる)



၁၉၅၆

1956


●ミャンマー
ミャンマーでは、西暦が使われていますが、独特のビルマ文字で刻まれています。
右のコインは、最下部に ၁၉၅၆(1956)が刻まれています。
近年では、通常の算用数字に変わりつつあります。


১৯৭৪
1974
●バングラデシュ
バングラデシュでも、西暦が使われていますが、独特のベンガル文字で刻まれています。
右のコインは、やや上部に ১৯৭৪ と刻まれていますが、1974です。 最後の2字は「98」に見えますが・・・
バングラデシュでも近年では、通常の算用数字に変わりつつあります。


١٣٩٨・١٩٧٨
1 9 7 8 ・ 1 3 9 8
●イスラーム諸国のイスラム暦、イラン暦、ペルシャ建国暦
右のコインはカタールのコインです。 上部に ١٣٩٨・١٩٧٨ と刻まれています。 左が西暦1978年、右がイスラム暦1398年であることを示しています。
イスラム暦かイラン暦かは、発行国に依存します。 イランとアフガニスタンであればイラン暦、その他の国はすべてイスラム暦です。
この他、イランでパフレビー朝の末期(1976~78年)に、アケメネス朝ペルシャの建国を起元とするペルシャ建国暦を使っていたことがあります。  ٢٥٣٥(2535)~٢٥٣٧(2537)に限られていますので、識別は容易です。



年二〇一國民華中

●中華民国の中華民国暦
中華民国のコインには、国名が書かれていません。 その代わり中華民国暦の発行年が大きく刻まれています。
右のコインは、中華民国102年(西暦2013年)に発行されたものです。
右のコインは、右書きですが、近年は左書きも増えてきました。



4294

●韓国の檀紀
韓国では、1948~1961年の間、檀紀(だんき)と呼ばれる暦が使われていました。 伝説上の初代国王檀君が即位した紀元前2333年を紀元とするものです。
通常の算用数字で、4281~4294の数字なので識別は容易です。



주체94(2005)

●北朝鮮の主体暦
北朝鮮では、金日成の生誕年を紀元とする主体暦(しゅたいれき)が使われています。
右のコインの 주체94(2005)のように西暦が併記されているか、または西暦だけなので識別は容易です。
蛇足ながら、中華民国元年、主体暦元年、(日本の)大正元年は、すべて同じ1912年です。

●タイのタイ暦

ฬ.ศ.๒๕๕๑
L. S. 2 5 5 1
タイでは、仏滅を紀元とする「タイ暦(タイ仏暦)」が使われています。
建物の右上に ฬ.ศ.๒๕๕๑ と刻まれています。 先頭の2字は、仏滅紀元(ポーソー)の略記号です。 その次の数字2,5,5,1がタイ暦2551年を示しています。 西暦の2008年になります。

かつてタイでは、隣国ミャンマーに仏教が伝来した年を紀元とする「ビルマ暦(タイ小暦)」が使われていました。 西暦=ビルマ暦+638 です。
その後、1888年にチャクリー王朝の建国を紀元とする「ラタナコーシン暦」に変りました。 西暦=ラタナコーシン暦+1781 です。
さらに1912年になって、現在のタイ暦(タイ仏暦)が制定されました。
古いコインの発行年は、これらの暦で刻まれていますから、ご注意ください。


२०५६
2056

●ネパールのネパール暦
ネパールでもネパール暦が使われています。
右のコインには、正方形の下側に小さく २०५६ と書かれています。 ネパール暦の2056年(西暦1999年)です。
●イタリアのファッショ暦
イタリアがファッショの全盛期(1936~43)、ファッショが政権を取った1923年を起元とする「ファッショ暦」を使ったことがあります。
ただし、1936 XIV(西暦1936年=ファッショ暦14年) のように、西暦を併記していましたので、識別は容易です。

●ヴァチカン市国の教皇暦
ヴァチカン市国コインには、教皇暦と西暦がともにローマ数字で表記されていました。 教皇暦は日本の年号に似ていて、教皇名+即位後の年数、です。
右のコインには、外周に IOANNES PAVLVS II P.M. AN.IV MCMLXXXII とあります。
  IOANNES PAVLVS II 教皇名ヨハネ・パウロ2世
  P.M.   PONTIFEX MAXIMVS「最高神祇官」の略。 ローマ帝国由来の教皇の称号。
  AN.IV 教皇即位4年。 ANはANNO(年)の略。
  MCMLXXXII 西暦1982年。
ただしユーロになってからは、算用数字の西暦表示だけに変っています。
戦後のユーロになる前の教皇は、次の方々です。
代数教皇名同ラテン語即位年備考
260ピウス12世PIVS XII1939
261ヨハネス23世IOANNES XXIII1958即位翌年がI年。
262パウロ6世PAVLVS VI1963
263ヨハネ・パウロIOANNES PAVLVS1978短期間のため、コインを発行していない
264ヨハネ・パウロ2世IOANNES PAVLVS II1978即位翌年がI年。2005年まで在位



イスラエルで使われているヘブライ数字と、エチオピアで使われているアムハラ数字だけは、少しやっかいです。

●イスラエルのユダヤ暦
ヘブライ数字は次の表のとおりです。 ゼロはありません。 500以上もありません。
ヘブライ数字
 1 2 3 4 5 6 7 8 9  10 20 30 40 50 60 70 80 90  100 200 300 400 
 ט ח ז ו ה ד ג ב א  צ פ ע ס נ מ ל כ י ת ש ר ק


התשמײו
6 " 40 300 400 5
6+40+300+400+5000 = 5746
文字が小さいので探しにくいのですが、通常、◎ה◎◎◎ײ の形をしています。 右のコインの場合、外周3時の方向に התשמײו と刻まれているのが読み取れます。
先頭(右端)の ה は5ですが、この場合5000を意味します(ヘブライ語は、右から左に書きます)。  残りの◎の部分をそのまま加算します。 このコインの場合、右から400、300、40、6ですから、合計で746です。 これでユダヤ暦5746年であることがわかります。 西暦1986年です。
なお、先頭の5は省略されることがあります。

●エチオピアのエチオピア暦
最後は、アムハラ数字です。 アムハラ数字にもゼロはありません。
アムハラ数字
 1 2 3 4 5 6 7 8 9  10 20 30 40 50 60 70 80 90  100 
 ፩ ፪ ፫ ፬ ፭ ፮ ፯ ፰ ፱ 
 ፲ ፳ ፴ ፵ ፶ ፷ ፸ ፹ ፺ 

፲ ፱ ፻ ፷ ፱
10 9 100 60 9
(10+9)x100+60+9 = 1969

アムハラ数字の場合、通常 □ ፻ ◎ の形式をしています。 中央の は100です。 □側の合計と、◎側の合計を計算し、(□×100+◎)が年数になります。
右のコインの場合、ライオンの下に小さな字で、፲ ፱ ፻ ፷ ፱ と刻まれていますから、□は10+9=19、◎は60+9=69です。 そして 、19×100+69=1969がエチオピア暦の年数になります。 西暦1976年です。



 2019.5.5  2019.11.10(令和元年の10円玉を入手)  2020.5.11((3)を追加)  2021.8.29 バチカン市国を追加


      コインの国名
      コインの単位名
      コインの額面表記